「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」に関する会長声明

本年10月12日、鳥取県議会において、「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」が成立した。人権侵害救済を、都道府県レベルにおいても簡易迅速に行おうとする試みではあるが、その内容については以下のように看過しがたい問題がある。


第一に、人権侵害救済推進委員会(以下、「委員会」という)について、委員の任命、予算の編成、事務局の職員の選任、規則の制定がほとんど知事の権限とされており、その行政からの独立性に不十分な点がある。行政機関による人権侵害を実効的に処理するためには、委員の任命は外部委員も含めた選任委員会を議会に設置し、公聴会を開催するなど、委員会の知事からの独立性を確保することが重要である。


第二に、人権侵害の概念が曖昧である。たとえば、「身体の安全又は生活の平穏が害される不安を覚えさせるような方法により行われる著しく粗野又は乱暴な言動を反復する行為」などはあまりに曖昧かつ漠然としすぎている。また、刑法230条の2の「公共の利害に関する事実が真実で、その目的が専ら公益を図る目的であったと認められる場合」の除外もなく、「ひぼう、若しくは中傷」にあたるとして人権救済の対象にすることは、メディアのみならず、市民団体、一般市民の表現の自由を侵害し、その表現活動を萎縮させるおそれがある。


第三に、その一方で、救済の対象とされる人権侵害が限定列挙されており、その範囲が極めて狭いという問題がある。そのため、本条例によれば、留置場・拘置所における被疑者の外部交通の侵害、刑務所における懲罰、これらの施設における医療拒否や医療体制の不備などを理由とする人権救済申立が対象から除外されるおそれがある。救済の対象となる人権の範囲としては、憲法及び日本が批准した国際人権法に規定する全ての人権を含むことを明記すべきである。


第四に、公権力による人権侵害に対する救済が、極めて不十分である。公権力による人権侵害に関しては、当該関係行政機関の長の判断のみにより調査協力の要請を拒むことが認められている。これでは、公権力による人権侵害に対して十分な救済をはかることは到底できない。人権侵害を行った行政機関が自ら調査を拒否できるとすることは極めて不合理である。


当連合会は、以上の観点から、「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」の抜本的手直しをすることを求めるものであり、この運用が新たな人権侵害をもたらさないよう、注視し続けるものである。


2005年(平成17年)11月2日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛