共謀罪が継続審議とされたことについての会長談話

本日、第163回特別国会が終了し、共謀罪の創設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」は、衆議院において継続審議となった。


国会が、この法律案に対し慎重審議の姿勢を示し、採決に至らなかったことについては一定の評価をするものであるが、この法律案に盛り込まれた共謀罪の危険性についての懸念が、本国会の審議過程において、与党議員も含む衆議院法務委員会の多くの委員から相次いで表明されたにもかかわらず、この法案が廃案でなく継続審議となったことについては、当連合会としては遺憾の意を表明せざるを得ない。


共謀罪は、「長期4年以上の刑を定める犯罪」(極めて広範な619以上もの犯罪)について、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」の「遂行を共謀した者」を、「犯行の合意」というどのようにも解しうる曖昧かつ不明確な基準によって処罰するものであって、犯罪の準備行為も不要とされ、組織的犯罪集団の行為である必要さえないものである。


これは、刑法の謙抑性に鑑み、法益を侵害する行為を処罰することを基本原則とするわが国の明治以来の刑法体系を崩すものであるとともに、「行為」でなく「意思」や「思想」を処罰することに通ずるもので、思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由などの基本的人権に対する重大な脅威となるものである。


また、共謀罪の捜査は、具体的な法益侵害行為を対象とするのではなく、会話、電話、電子メールなどのあらゆるコミュニケーションの内容を対象とせざるを得ないために、自白への依存度を強めるとともに、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律の適用範囲の拡大や、電子メールのリアルタイム傍受の合法化も予測され、わが国の監視社会化に拍車をかけるおそれもある。


当連合会は、あらためて、刑法の基本原則とその人権保障機能に反するものとして、このような共謀罪の制定に強く反対することを確認するとともに、政府および国会が、国連越境組織犯罪防止条約の国内法化に際しては、この法律案に拘泥することなく、越境組織犯罪の防止というこの条約の本来の趣旨・目的とわが国の刑事法制の基本原則に立ち返り、いやしくも、市民の基本的人権を不当に制限することのないよう抜本的な見直しを行うことを強く求めるものである。

2005年(平成17年)11月1日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛