「布川事件」再審開始決定に関する会長声明

本日、水戸地方裁判所土浦支部は再審請求人桜井昌司氏、同杉山卓男氏に係る再審請求事件、いわゆる「布川事件」について、再審を開始する旨の決定を下した。


本件は、1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件で、1978(昭和53)年の上告棄却決定により無期懲役の判決が確定したが、犯人とされた両氏は、取調べ過程で自白させられたものの、第一審公判開始以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた。


当連合会は1978(昭和53)年の判決確定直後より人権擁護委員会内に布川事件委員会を設置し、以来本件を支援してきたところであるが、逮捕から38年間の長きにわたって無実を訴え続けてきた請求人らとこれを支えてきたご家族・支援者の方々、弁護団の活動にあらためて敬意を表するものである。


本件確定判決の証拠構造は、物証は皆無で、有罪の根拠は曖昧な目撃証言と矛盾・変遷が顕著な請求人らの自白しか存在しないという脆弱なものであった。本日の再審開始決定は、この点を正しく分析し、白鳥・財田川決定をふまえて、多数の新証拠とともに総合評価した上で、確定判決の証拠価値の判断に関する誤りを率直に認めたものである。これはいわゆる「名張毒ぶどう酒事件」に関する本年4月の名古屋高裁決定に続き、正義を貫く裁判所の姿勢を国民に示したものとして、高く評価する。


また、今次請求審においては、多数の未提出証拠が30数年ぶりに開示され、開始決定の有力な証拠とされたが、このことは証拠開示の重要性を改めて示すものといえる。


本日の決定を尊重し、検察官は即時抗告をしないよう強く期待する。


当連合会は、今後もえん罪を防止するための制度改革に向けて、証拠の全面開示の実現、取調べの全過程の可視化(録画・録音)、違法な取調べの温床になっている代用監獄制度の廃止の実現に全力を尽くすとともに、請求人両名が無罪判決を勝ち取るまで、今後もあらゆる努力を惜しまないことをここに表明する。


2005年(平成17年)9月21日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛