中国残留邦人問題についての会長談話

本日、大阪地方裁判所は、いわゆる中国残留孤児国家賠償大阪訴訟について、原告らの国に対する損害賠償請求を棄却する判決を言い渡した。


当連合会は、1984年の人権擁護大会で、「中国残留邦人の帰還に関する決議」を採択し、残留孤児を含む残留邦人の日本国籍取得手続を速やかに整備して早期帰還を実現することや、自立を促進する特別の生活保障をするなどの特別立法を含む諸措置を速やかに講ずることを求めた。また、2004年3月には、当連合会に対してなされた人権救済申立を受けて、国に対して、帰国促進策等の徹底や戸籍回復・国籍取得手続の改善のほか、生活保護によらない特別の生活保障給付金制度の創設や日本国民が受給する平均金額以上の年金が受給可能となる所要の立法措置などを講ずることを勧告した。


一方、2002年12月の東京地方裁判所への提訴を皮切りに、既に全国15の地方裁判所に、総数2000名を越える帰国した元中国残留孤児(以下単に「残留孤児」という)が本件と同様の訴訟を提起するという事態となっている。


本日の大阪地裁判決は、これら一連の訴訟で最初の判決となったものである。


本判決は、国策に基づく旧「満州」への「入植・国防政策の遂行」という国の先行行為に基づく国の早期帰国実現義務を認めながらも、公務員が通常期待される努力によって遅延を解消することができたのにその努力を怠ったとはいえないとし、また、残留孤児に対する国の自立支援義務についても、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断に委ねられるとして不法行為を構成しないとしたものである。


しかし、残留孤児は、日本における義務教育の機会を失って日本語が十分に使えないことなどにより社会生活上の様々な不利益を受け、多くが生活保護により生計を維持することを余儀なくされているという実態は、本判決も認めるとおり、看過しうるものではない。この実態を直視するならば、残留孤児を支援する十分な施策が必要であることは明らかである。にもかかわらず、残留孤児に対する帰国後の諸施策は人間らしく生きる権利や個人の尊厳を確保するにたりるものとはなっていない。


よって、当連合会は、昨年3月の勧告の趣旨に沿い、政府及び国会の責任において、残留邦人の老後の所得保障など支援施策の抜本的な見直しや立法措置を行うなどの施策を早急に実現することを求めるものである。


2005年(平成17年)7月6日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛