会長声明(名張毒ぶどう酒事件再審決定について) 

本日、名古屋高等裁判所刑事第1部は、再審請求人奥西勝氏に係る再審請求事件、いわゆる「名張毒ぶどう酒事件」について、本件再審を開始し、奥西氏に対する死刑の執行を停止する旨の決定を下した。


当連合会は、第一審・津地方裁判所の無罪判決を破棄・自判した名古屋高等裁判所の死刑判決は、重大な誤判の疑いがあり、冤罪の可能性が高いものと判断し、上記死刑判決が確定した翌年の1973(昭和48)年から人権擁護委員会に名張事件委員会を設置して、以来奥西氏の救済のため最大限の支援を行ってきた。


事件発生当時35歳であった奥西氏は、本年1月、79歳になり、奥西氏は虚偽の自白と誤った鑑定によって殺人及び殺人未遂事件の犯人として死刑判決を受け、長期にわたって死の恐怖にさらされてきたが、これに屈することなく独房から無実を訴え続けてきた。本日の決定は、奥西氏の不屈の闘いとこれを支えてきた再審弁護団の献身的な努力によるものであることはいうまでもない。


当連合会は、本決定を心から喜び、長期にわたって闘い抜かれてこられた奥西氏と再審弁護団の活動に対してあらためて敬意と謝意を表する。


本日の再審開始決定は、再審の扉を大きく開いた最高裁・白鳥、財田川決定を踏まえて、確定判決の証拠構造を的確に分析し、新旧証拠を総合評価した上、確定判決の誤りを明確に断罪している。


具体的には、奥西氏以外の者にも犯行の機会があること、重大な物証である四つ足替栓が、本件ぶどう酒瓶に装着されていたものでない疑いが生じていること、本件犯行に使用された毒物が、奥西氏が所持していたニッカリン・Tではなかった疑いが生じていること、及び自白の信用性に重大な疑問があることを明らかにして、確定判決の有罪認定には新証拠を加えることによって合理的な疑いが生じていると結論付けたものである。


当連合会は、検察官に対して、本決定を真摯に受け止め、異議申立をすることなく速やかに再審公判に移行させ、早期に冤罪をはらすことができるように強く訴えるものである。また、裁判所に対しては、直ちに公判を開き必要最小限の審理を行って、一日も早く無罪の宣告をされるよう要望する。


当連合会は永年にわたり、冤罪に苦しむ人々のために、再審について力を注ぎ、具体的な事件の救済とともに、立法や運用につき改善を提言している。また、当連合会は、死刑冤罪事件の存在などから、死刑執行停止法の制定も提言している。本日の決定は、今なお粘り強く続けられている多くの再審事件の関係者に大きな励ましとなることはもちろん、当連合会が取り組んでいるこのような提言が一刻も早く実現されることの必要性を示したものである。


当連合会は、今後とも奥西氏が完全無罪判決を勝ち取るまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。


2005年(平成17年)4月5日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛