会長談話(大崎事件再審開始決定の取消決定にあたって)

福岡高裁宮崎支部は、昨日、原口アヤ子氏の再審申立について、鹿児島地裁の再審開始決定を取り消す決定を下した。


本件は、1979年(昭和54年)に鹿児島県大崎町で牛小屋から遺体が発見された、いわゆる大崎事件である。原口氏外2名が殺人・死体遺棄容疑で、更に1名が死体遺棄容疑で逮捕された。原口氏は一貫して無罪を主張したが、懲役10年の有罪判決が確定し、服役した。しかし、原口氏は出所後に再審を請求し、2002年(平成14年)3月、鹿児島地裁は再審開始を決定した。


最高裁・白鳥決定は、再審における新証拠の明白性判断について、「もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべき」であると判示して、その判断基準については、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用されるものと解すべきである」とした。そして、財田川決定によってその具体的判断方法が示された。これら白鳥・財田川決定によって無辜の救済の扉が大きく開かれたのである。


鹿児島地裁の開始決定は、上記最高裁白鳥・財田川決定に沿う、妥当なものであった。


ところが、今回の福岡高裁宮崎支部決定は、原決定に対し「新鑑定の立証命題を離れて、原審の立場で、確定判決審が取り調べた証拠を全面的に評価し直し」ていると批判し「このような判断のあり方は、確定判決の安定を損ない、ひいては、三審制を事実上崩すことに連なるもの」と述べた。これは上記白鳥・財田川決定が示した明白性判断基準とは異なる基準による判断であり、無辜の救済という再審制度の本質に反する、極めて不当なものである。このような判断は、白鳥・財田川決定によって開かれた再審の扉を再び閉ざすものとして到底受け入れられない。


原口氏は、ただちに特別抗告を行うことを決めた。当連合会は、今後も大崎事件の行方を注視し、白鳥・財田川決定に基づく判断がなされることを強く求めるものである。


2004年(平成16年)12月10日


日本弁護士連合会
会長 梶谷 剛