少年被疑者の公開捜査についての警察庁通達に対する会長声明

警察庁は、昨日(12月11日)、被疑者が少年の場合にも公開捜査を行うことが許される旨の通達を全国の警察本部等にあてて発出した。「犯した罪が凶悪であって、その手段、方法が特に悪質で再び凶悪な犯罪を行うおそれが高」い場合などを例示しているが、「少年自身の保護と社会的利益との均衡、捜査の必要性等の諸要素を総合的に勘案してその要否を判断」した上で、公開捜査ができるとしており、その場合、少年の氏名や写真も公開されることとなる。また、被疑者の人定が特定されていない場合で、少年である可能性があるときでも、写真や似顔絵等の資料を公開できることとしている。


しかし、このような公開捜査の実施は、少年の健全育成を目的とする少年法及び子どもの権利条約をはじめとする国際人権基準に反するものと言わざるをえない。


すなわち、少年法61条は、少年のプライバシーを保護するとともに、少年の更生や社会復帰を確保する目的で、少年審判に付された少年及び少年のとき犯した罪により公訴を提起された者について、氏名、年齢、職業等本人であることを推知できるような報道を禁止している。そして、その趣旨は、少年審判や刑事手続だけに限らず、捜査段階にも及ぶものとされている。公開捜査の実施により,少年の氏名や写真を公開することは、報道機関に対して少年本人を特定するような報道を行うことを求めることにほかならず、捜査機関がこのような措置をとることは、同法61条の趣旨を大きく逸脱するものである。なお、犯罪捜査規範209条でも、少年法61条と同様の趣旨から、「少年事件について、新聞その他の報道機関に発表する場合においても、当該少年の氏名又は住居を告げ、その他その者を推知することができるようなことはしてはならない。」と規定しているところである。


また、わが国も批准し国内法的効力を有する子どもの権利条約40条2項b)vii)は、少年司法に関し、手続の全ての段階において子どものプライバシーが尊重される権利を規定し、また、少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)でも、「少年のプライバシーの権利は、不当な公表やラベリングによって少年が害されることを避けるために、あらゆる場面で尊重されなければならない。」「原則として、少年の特定に結びつくどんな情報も公表されるべきではない。」と規定している。このように捜査段階を含む、手続のあらゆる段階で、少年の特定につながる情報の公開を禁ずることは国際的な要請であり、今回の通達は、これに逆行するものと言わざるを得ない。


しかも、少年事件についても、少年審判等の手続を経て、無実が証明される事件も少なくなく、このような冤罪事件の少年にとって、氏名や写真が公開されることは回復し難い損害をもたらすものである。


従って、警察庁は、今回の通達を直ちに撤回するとともに、今後も少年を特定するような情報の開示を行わないよう、強く求めるものである。


2003年(平成15年)12月12日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹