ハンセン病元患者に対する宿泊拒否に関する会長声明

熊本県が実施する「ふるさと訪問事業」に際し、株式会社アイスター経営にかかるアイレディース宮殿黒川温泉ホテルが、国立療養所菊池恵楓園の同県出身の入所者の宿泊を拒否したことが、本年11月18日、明らかとなった。


本件事業は、熊本県が、菊池恵楓園の入所者に対し、ふるさととの絆を深めてもらうことを目的に実施しているものであるが、それが90年に及ぶ誤った隔離政策によりその人生全般にわたって甚大な被害を受けた入所者に対する地方自治体の施策であることに鑑みれば、当該ホテルの行為は、入所者が居住する地元の地域社会において、ハンセン病元患者の社会での共生を阻害し、未だに残るハンセン病元患者に対する偏見・差別をさらに助長するおそれすらある反社会性の強い行為であるという点において、極めて重大な人権侵害である。


しかも、熊本県によれば、いったん宿泊予約が行われたにもかかわらず、宿泊予定者が菊池恵楓園の入所者であると判明した際に、まさにそのことを理由に宿泊拒否が行われ、また、その事実を把握した熊本県が、入所者による感染の心配がないこと等について説明を尽くし、再三にわたり宿泊の受け入れを求め、さらに県知事名の文書で抗議したにもかかわらず、当該ホテルはこれを拒否したというのであるから、ハンセン病元患者に対する明白な差別であると断ぜざるを得ない。


他方、本件における宿泊拒否は、「他の客に迷惑がかかる」という理由で行われているが、これは感染力がないにもかかわらず、国家が「感染のおそれ」を理由にハンセン病の患者を生涯隔離し続けたという政策によって生み出された偏見・差別に根ざしたものというべきであり、このような偏見差別を生み出した国の原状回復義務としてのハンセン病元患者に対する偏見・差別の除去施策が未だ不十分であることを示すものである。


当連合会は、本件に関し、株式会社アイスター及びアイレディース宮殿黒川温泉ホテルに対し、ハンセン病元患者に対し真摯に謝罪し、二度とこのような行為を行わないことを求めるとともに、国に対し、本件に関する十全な調査を行い、ハンセン病元患者に対する偏見・差別の除去のための施策をさらに徹底し、二度とこのような事件が起こらないよう十分に実効的な施策を講じることを求める。


2003年(平成15年)11月20日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹