「少子化社会対策基本法案」に関する会長声明

2001年に衆議院に提出され、継続審議となっていた「少子化社会対策基本法案」(以下「同法案」という。)が今国会において審議される予定である。


当連合会も、少子化対策の必要性並びに男女が共に家庭と仕事の両立を図れるよう、子育てのための環境整備を進めていくことには異論がない。


しかしながら、当連合会が2001年9月21日付意見書で述べた通り、同法案には憲法、諸条約の精神に照らし、下記の通り様々な問題点がある。

第一に同法案は、目的・基本理念(前文、1条、2条)において、女性の選択・自己決定権尊重の視点が欠如しているため、これらを明文化すべきである。


少子化社会にあっても、女性が結婚するか否かを含め、子どもを持つか否か、何時、何人持つかという選択権を尊重することが重要であることは、1994年の国際人口開発会議の行動計画、及び1995年の北京女性会議の行動綱領においても明記されていることである。


また、女性の自己決定権を尊重し、多様なライフスタイルを認めることが出生率の低下と不可避的に結びつくものではなく、OECD諸国のように、女性の就業率が高く、女性の自己決定権が尊重され、男女共同参画社会が実現している国ほど、むしろ出生率も高いことが実証されている。


わが国が急速な少子化社会となった背景のひとつとして、女性の自由な選択に対する社会の偏見と差別意識が根強いことがあげられていることもふまえ、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応は取られるべきではない。


第二に、少子化の要因は、国民の意識よりも子どもを産み育てる環境の未整備であることがこれまでの人口問題審議会及び各種審議会等の分析からも明かであることから、国民の責務よりもむしろ環境整備等に関する国の責務をより具体的に明確にすべきである。


しかしながら、同法案では、「国民の責務」として「国民は家庭や子育てに夢を持」つことができる社会の実現に資するよう努めることを掲げている。これは、国民に「子どものいる家庭」という家族像を押し付けるものとなりかねず、一定の価値観を持つことを「国民の責務」として間接的に国民に課すものである。これは、政府が「唯一の理想的な家庭像を追求」する危険性があり、国際的・国内的潮流を否定し、婚姻や出産に関する自己決定権の尊重という確立した考え方を否定するものである。


その他、同法案は、子育てについても国の責務を明記せず父母が第一義的責任を有するとのみ規定している点(2条)、多様な保育形態の中で幼稚園の充実のみを強調することは均衡を失している点(11条2項)、母子保健医療体制にあっては不妊治療のみを強調している点(13条)、教育啓蒙にあっては男女共同参画社会形成の視点を欠き「家庭の役割」や「生命の尊厳」を強調している点、等問題が多い。


以上、本法案の様々な問題点を十分議論し、慎重に審議され、修正等がなされるべきである。


2003年(平成15年)5月22日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹