公益通報者保護制度に関する会長声明

昨今、食品の偽装表示事件や自動車のリコールに係る事件など、事業者内部の従業者からの通報を契機として企業の不祥事が明らかになる事例が相次いでいる。そのため、内閣府は公益通報者保護制度検討委員会を設置し、来る5月7日には、最終とりまとめがなされる予定である。


当連合会も、内閣府の「21世紀型の消費者政策の在り方について・中間報告」についての意見書を本年1月18日に公表し、その中で、公益通報者保護制度に関する提言を行った。


ところが、今般、上記委員会事務局が発表した「とりまとめ案」によれば、公益通報を現在よりもむしろ制限するおそれが強いと判断される記述があり、当連合会の意見を無視したものとなっている。


当連合会は、少なくとも、次の2点につき、直ちに是正し、上記委員会の最終とりまとめを行うよう求める。


  1. とりまとめ案は「通報の範囲」として、「消費者利益(生命、身体、財産など)を侵害する法令違反」、「国民生活に関わる分野での法令違反」を通報の対象として含めることが望ましい、としている。
    しかし、保護すべき通報範囲としては、上記のような法令違反だけでは狭きに過ぎ、形式的な法令違反には該当しなくとも「事業者の行為による人の生命・健康・財産の危険」や「事業者の行為による環境破壊の可能性が高いこと」といった、実質的に消費者利益や国民生活上の利益を侵害するおそれのある事項、及び、これらの事項を示すような情報が故意に隠蔽されたこと等も含むとすべきである。
  2. また、「保護される通報先と保護要件」について、上記(1)の法令違反という限定を行った上で、英国のような通報保護要件を導入することは、事実上事業者及び行政機関への通報前置となり、わが国の企業風土、産業育成を主とした行政システム、国民性に鑑みると、通報を萎縮させ事実上制度が可動しないなどの問題があり、その採用には反対せざるを得ない。

昨今の企業不祥事の発覚と、その後の状況の改善にマスコミが果たした役割に鑑みると、本制度の導入がマスメディアの取材活動の妨げにならないよう十分留意し、真に消費者利益の擁護を図る制度設計とすべきである。


2003年(平成15年)4月30日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹