労働基準法一部改正(解雇ルール)に関する会長声明

1. 近時の経済情勢及び雇用情勢の悪化により、雇用に関する紛争が増加し、特に、解雇などの雇用契約終了に関する紛争が増加している。ところが、わが国には、解雇に関する制定法の定めとしては、労働基準法の解雇予告(労基法20条1項)、産前産後・業務災害の場合の解雇制限(労基法19条、65条)などの一定の制限はあるが、民法627条1項は期間の定めのない雇用契約については何時にても解約できるとしている(なお、民法628条は期間の定めのある雇用契約は已むことをえない事由がある場合にしか解約できないとしている)。


最高裁判所は、昭和50年4月25日日本食塩製造事件判決にて「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」として、解雇ルールを明らかにしている。この判決は、既に判例として確立し、訴訟実務上も定着している。この判例のもと、実際の訴訟実務においては立証責任にかかわりなく使用者側が解雇事由を積極的に主張立証し、労働者側がこれに反論するという訴訟運用が定着してきた。


2. 本年3月7日に閣議決定された改正労基法案では、解雇ルールについて「使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(改正法案18条の2)という法文となってる。


しかし、法文の本文で「使用者は、…(中略)…解雇できる」とし、但書で「ただし、…(中略)…権利を濫用したものとして、無効とする」と定める規定の仕方では、使用者は労働者を原則として自由に解雇できるという誤ったアナウンス効果を招く弊害がある。上記弊害を考慮すると、確立された前記判例法理をそのまま法文化することが適切であると考える。


以上の理由から、同改正規定は、「使用者の解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効とする」との修正を行うべきである。


2003年(平成15年)4月18日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹