広島弁護士会国賠判決に対する会長声明

1. 本年3月27日、広島弁護士会及び同会会員が広島地方裁判所に提起していた2件の国家賠償請求事件について、いずれも請求を棄却する判決(以下「判決」という)がなされ、広島弁護士会などは3月31日にこれを不服として広島高等裁判所に控訴した。


これら訴訟は、広島刑務所の被収容者から所内における人権侵害について広島弁護士会に対し救済申立がなされたことから、同弁護士会が申立人の主張にかかる事実を見聞したとされる受刑者との面会調査を申し入れたところ、同刑務所が「施設管理運営上の支障」を理由として面会を拒否し、調査ができなかったことについて、同会などが国に対し損害賠償請求をした事案である。


2. 昨年来、名古屋刑務所での死傷事件をはじめとして次々と明るみに出される事件により、刑務所・拘置所における違法かつ非人道的な処遇によって数多くの被収容者が人権侵害を受けていること、施設と法務省当局がそれらを隠蔽してきたこと、そしてその人権侵害事実を外部に申し立てるについては刑務所が保安と規律保持を理由として妨害してきた実態が広く明らかとなった。また、昨年12月に当連合会人権擁護委員会が取りまとめた結果によれば、過去5年間の当連合会及び各弁護士会への人権救済申立のうち刑務所・拘置所に関するものが全体の41%に達した。さらに、本年3月上旬に当連合会が各地の弁護士会に依頼して実施した「刑務所・拘置所110番」においても100件を超える架電があり、日本全国の刑務所・拘置所における非人道的な処遇と人権侵害の事実、また情願等の不服申立制度が全く機能していないことが明らかになった。


このような状況を踏まえれば、弁護士会をはじめとする外部の第三者機関による刑務所・拘置所の人権状況に対する監視の必要性は、大多数の国民の承認するところである。


また、国際人権(自由権)規約委員会の最終見解(勧告)においても、我が国の刑務所での人権侵害に対する強い懸念と救済に関する制度の欠如が指摘され、国際的にも実効性のある制度の構築を求められているところでもある。


3. 当連合会、弁護士会の人権救済活動は、弁護士法1条の使命達成の活動であり、その手続の厳格性、従前の実績、国民の信頼によって支えられ、事実上であるが強い強制力を有するものとされている。ところが、判決は、一方で弁護士会及び当連合会の人権救済活動について一応の評価をしながら、他方で親族でない者との接見を原則として禁ずる監獄法45条2項が弁護士会の調査にも当然に適用され、広島刑務所長の面会拒否には裁量権の濫用ないし逸脱はない旨判示した。


このような判断は、当連合会、弁護士会の人権救済活動についての不十分な理解のもとに、刑務所における拘禁の確保と秩序維持を重視し、人権保障に十分な配慮をしない従来の矯正行政の追認にほかならず、現在事実上唯一の外部からの調査救済機関である弁護士会による真実解明と人権救済を妨げることになる点で、当連合会としても到底是認できるものではない。


4. 当連合会は、刑務所等が人権救済の調査に応ずることを強く求め、今後も被収容者をはじめとする人権侵害を受けた者の調査・救済活動に努力するとともに、当連合会や各弁護士会の人権擁護活動に対する理解と支援を拡大するための活動に邁進することを声明する。


2003年(平成15年)4月3日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹