名古屋刑務所における暴行陵虐事件の新展開に関する会長声明

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1. 名古屋刑務所において、複数の刑務官が受刑者に暴行を加え、昨年5月に受刑者を死に至らしめ(以下、5月事件という)、同年9月には、受刑者に開腹手術を要する重大な傷害を負わせた(以下、9月事件という)事件が発生した。


これらの事件に続いて、去る2月12日、平成13年12月に、刑務官が受刑者に対し、保護房内で臀部に消防用ホースで高圧の水を噴射させ、直腸損傷を惹起させて死亡させたという事件(以下、本事件という)が報道された。


2.今回の刑務官の行為は、何らの法令上の根拠もない行為である。これは、いかなる弁解の余地もない残虐な拷問である。冬季に狭い保護房内でこうした残虐な行為によって生命を奪われた受刑者の屈辱と苦痛は想像するだに戦慄を覚える。


また、この刑務官の行為については、立ち会っていた複数の刑務官、当時の所長以下の幹部職員もその事実を知っていたはずである。ところが、名古屋刑務所は、その直後から、法務省矯正局に対して、「自傷による死亡事故」である旨の虚偽の報告をしていた。名古屋刑務所の組織的な事実隠蔽体質は、強く批判されなければならない。


さらに、法務省矯正局は、本事案が名古屋刑務所から報告された後、特段の調査をすることがなかった。本事件は平成13年12月に発生したのであるから、その時点で適切な対応がなされていれば、5月事件・9月事件の発生は防止できたのである。そして、5月事件・9月事件が発覚した後も、本事件については、「自傷事案であり問題はない」旨の国会答弁をしていた。法務省本省、矯正局の監督責任も問われなければならない。


3.当連合会は、法務省に対し、つぎのことを強く求める。


  1. 現在発覚している上記3事件について、独自に調査を遂げ、その結果を速やかに公表すること。
  2. これらの事案に関与し、または監督責任を負うべき法務大臣、本省を含む幹部職員に対して厳重な処分を行うこと。
  3. 保護房への収容については、その収容要件を抜本的に再検討すること。
  4. 革手錠の使用を廃止すること。


なお、当連合会は本年3月上旬、全国の弁護士会において「刑務所・拘置所110番(保護房、革手錠の濫用等に関する実態調査)」を予定しており、その結果を集計し、あらためて受刑者及び未決収容者からの救済申立を取り扱う法務省から独立した人権救済機関を設置することなどを含む行刑の抜本的改善策を提起する所存である。


2003年(平成15年)2月20日


日本弁護士連合会
会長 本林 徹