テロ対策特別措置法案に関する声明

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  1. 9月11日にアメリカで発生した同時多発テロにより、一瞬にして6千名を超える市民が犠牲となった。このような残虐かつ非人道的なテロ行為は、憎むべき犯罪であり、市民に対する最大の人権侵害として断じて許すことができない。ここに犠牲になられた方々やそのご家族に対し心より哀悼の意を表するものである。
    このようなテロ犯罪に対しては、国際社会が共同で対処し、国連憲章と国際法に基づき、実行犯や組織者などを特定し、国際法廷における厳正な法の裁きを行うことが必要である。また、テロの根絶に向けて、国際社会が一致協力して、テロの温床を絶つためのあらゆる方策に力を尽くすことが大切である。
    そして、武力による威嚇、武力の行使を禁止した憲法をもつ日本は、世界に先駆けて、このことを国際社会に働きかける崇高な使命を有している。
  2. ところで政府は、10月5日、テロ対策特別措置法案(略称)を国会に提出した。同法案は、米軍など諸外国の軍隊等の活動に対して我が国が実施する措置として、武器弾薬の輸送を含む協力支援活動、戦闘行為により遭難した諸外国の戦闘参加者の捜索救助活動、被災民支援活動などを自衛隊の活動内容としている。また、周辺事態法とは異なり、他国領域をも活動地域とし、武器の使用基準を緩和し、政府の定める基本計画や同計画に基づく協力支援活動などの対応措置の実施について国会の承認を要求していない。
    しかし、テロ対策のための軍事行動などを支援するにあたっては、我が国のとる対応措置は、憲法に基づきその範囲内で行われるべきものであることは言うまでもない。
    自衛隊が公海上のみならず、戦闘地域に隣接する他国領域において武器弾薬などの輸送を含む活動を行うことは、近時の軍事常識上、相手側からは武力行使と不可分な兵站活動とみなされるおそれが強い。さらに戦闘参加者の捜索救助活動や野戦病院の設営警護などは、非戦闘地域を実施区域として行われることとされてはいるが、活動の性格上当然戦闘行為との時間的・地理的近接を要求される行為であるから、戦闘行為と一線を画することが事実上困難である場合が多く、武力行使と一体化したものと評価されかねない。
    日本国憲法は、第9条において、国際紛争の解決手段としての戦争と武力による威嚇または武力行使を永久に放棄し、戦力不保持と交戦権の否認を定めている。
    テロ対策特別措置法案は、この第9条に定める武力行使の禁止に抵触するおそれがあると言わざるをえない。
  3. よって当連合会は、テロ対策特別措置法案には以上のように憲法上の重要な問題点が存在することをここに指摘し、国会に対し、なし崩し的な解釈改憲の弊をおかすことのないよう、慎重な審議を求めるものである。


2001年(平成13年)10月12日


日本弁護士連合会
会 長 久保井 一匡