ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために(勧告)

日弁連総第15号
2001年(平成13年)6月21日


内閣総理大臣 小泉 純一郎 殿
衆議院議長 綿貫 民輔 殿
参議院議長 井上 裕 殿
厚生労働大 坂口 力 殿
法務大臣 森山 眞弓 殿


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡


当連合会は、療養所を退所されたハンセン病元患者及びらい予防法違憲国家賠償請求訴訟原告弁護団から、「らい予防法は廃止されたが、患者や元患者(以下「元患者」と略す。)が社会復帰し故郷で生活するために必要な支援策や保障がなく、憲法で保障された『健康で文化的な生活』を営むことができない。また、元患者の名誉回復措置やハンセン病に対する偏見差別をなくすための努力も何ら講じられていないため、退所してもかえって根強い偏見と差別に晒され、入所していた事実や患者であった事実を周囲や家族にさえ明らかにすることができず、社会から孤立したきわめて厳しい生活を送らざるを得ない状況にある」との人権救済の申立を受けた。


戦前から行われてきた無らい県運動や「旧癩予防法」・憲法に違反する「らい予防法」による長期間の強制隔離政策により社会に定着したハンセン病に対する根強い偏見と差別を除去し、充分な支援と保障の下で、国の誤った法と政策による重大な人権侵害の被害者である元患者が、その被害を回復し社会の中で尊厳ある生活を送ることを可能とすることは、この社会に住むわれわれの責務である。元患者が人たるにふさわしい生活を回復するために、国・地方公共団体において、社会復帰支援、医療と生活の保障、住居の確保、親族関係の調整、精神的ケア、名誉回復措置、差別と偏見の除去といったあらゆる分野にわたり、充分な施策を講ずることが必要である。


当連合会は、この間の取り組みが極めて不充分であり、本件救済申立に対する対応も著しく遅れたことを反省し、今後自らもその社会的責務を果たすことを誓うとともに、国に対し、らい予防法の制定と存続、強制隔離政策の遂行について国家賠償責任を負う立場から、地方公共団体と協力して速やかに以下の施策を講ずるよう勧告するものである。


  1. 「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」に基づく一時金の支給のほかに、
    1. 元患者に対し年金に準じた給付金を生涯にわたって支給すること。
    2. 退所及び社会復帰を希望する人に対し、社会復帰・帰郷を可能とするための充分な額の準備金を支給し、都道府県等の地方公共団体と協力し、故郷における住居の確保・親族関係の調整等の受け入れ体制を整備し、日常生活の介護等必要な支援体制を整えること。
  2. 退所した元患者の生活全般を支援する「ハンセン病生活支援センター」(仮称)を設置すること。
  3. 退所した元患者が各地域において安心して良質かつ適切な医療を受けられるようにハンセン病の治療体制を整えること。そのために全国に指定病院を設置すること。
  4. 社会に根強く残るハンセン病に対する差別と偏見を除去し、元患者が地域社会に受け入れられて堂々と暮らすことが可能となるまで、新聞・テレビ・ホームページ等を通じた広報やパンフレットの作成・配布を継続して行い、ハンセン病に対する正しい知識を周知徹底させること。
  5. 元患者の名誉回復のため、ハンセン病の歴史と国の責任を明らかにする「ハンセン病資料館」を充実させ、かつ、各療養所において亡くなられた方々を慰霊するための施設を設置し、都道府県等の地方公共団体と協力して、遺族との調整を踏まえその遺骨をふるさとに帰す事業を実施すること。
  6. 療養所での生活を希望する人のために権利としての終生在園を保障し、療養所の施設・医療・看護・介護等を整備・充実させ、療養所の民主的運営につとめること。
  7. 国が保管するハンセン病政策に係る全ての資料を公開し、元患者、弁護団を含めた第三者機関により、今日までの誤ったハンセン病政策を検証し、その真相を究明し、二度とこのような悲惨な事態が起きないよう再発防止策を策定すること。
  8. 以上の施策の実施にあたっては、元患者・弁護団との常設の協議機関における協議を踏まえ、元患者・弁護団の要求を最大限尊重すること。

以上