少年法改正法案の衆議院提出に対する会長声明

与党三党は、本日、議員立法の形式で、少年法「改正」法案を衆議院に提出した。


法案では、1.刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げる、2.犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件は、原則として検察官送致決定をするなどとしている。


しかし、「刑罰化」「厳罰化」が少年犯罪の抑止につながらないことは、アメリカの例でも明らかである。また、少年の立ち直りにとっても、少年法の理念に基づく矯正教育こそが有効であり、刑罰は逆効果である。近年、ドイツ、イギリス、アメリカにおいても、実証的な調査・研究に基づき、応報刑から改善・更生のための処遇の充実への転換が図られており、今回の法案は、これら各国の経験と教訓に逆行するものである。


また、本年6月に廃案となった少年法「改正」法案が一部修正されているが、当連合会が従前から主張している問題点は改善されていない。


まず、当連合会が第一に主張している少年事件の捜査の改革に手を付けておらず、また、予断排除原則がなく、伝聞法則もない審判廷に検察官が出席するという少年にとっての不利益・不公平性は、全く改められていない。


さらに、重大な事実誤認などを理由とする検察官の高等裁判所への抗告受理申立権の付与は、実質的にみて検察官に抗告権を付与するのと同様の機能を果たすことは明らかである。家庭裁判所の事実認定について、裁判官が少年の自白調書などの捜査記録を予め読んでいるという刑事裁判以上に少年に不利益な審判構造を維持して、検察官の審判出席を認め、さらに加えて検察官に不服申立権を認めるなどという制度は、適正手続きの観点からも許されることではない。しかも、事実誤認を理由とする抗告受理申立権は、事実審理の負担を最小限にとどめるための憲法39条の二重の危険の法理に反することと考えられるばかりか、家庭裁判所の審判への協力者と位置付けられた検察官の地位とも理論的に矛盾する。


法案のいう被害者への配慮については、当連合会は本年3月に少年事件被害者の少年事件手続への関与に関する規定を発表しており、積極的にすすめるべきである。しかし、被害者の意見表明とその記録化および被害者への通知制度は、捜査段階でこそ丁寧に行なわれるべきであって、法案ではこの視点が欠けており、被害者の権利保障の観点からは不十分である。


当連合会は、保護処分終了後における救済手続の整備を除いて、今回の法案に反対であり、抜本的な再検討を強く要請する。


国会は、拙速な結論を避け、少年犯罪の実態と原因の調査や重大な少年事件のケ-ス分析を丁寧に行うなど、少年問題に携わる幅広い人々の意見を聴し、慎重な検討と討議を尽くすべきである。


2000年(平成12年)9月29日


日本弁護士連合会
会長 久保井 一匡