草加事件最高裁判決に対する会長声明

最高裁判所は、本日、草加事件損害賠償請求訴訟事件に対し、少年らの自白の信用性を肯定した控訴審の判断過程には経験則に反する違法があるとして原判決を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻した。


本件は少年審判手続で強姦および殺人の非行事実を認定された元少年らがえん罪を訴えていた事件であり、本日の最高裁判所判決は、元少年らの無実を事実上認めたものと言えよう。事件発生以来15年、この間の元少年らの労苦、そして事件未解決の状態におかれた被害者御遺族の心情は、察するにあまりある。


本件の控訴審判決およびそれに先行した本件の少年事件手続を検討すると、主要な問題点は次の点にあった。第1に、警察が自白を強要し、加えて検察官が警察の捜査を点検することなく家庭裁判所に事件を送致したこと、第2に、自白と物的証拠の矛盾が明白になった後においても検察官が警察の捜査の誤りを取り繕うとしたこと、第3に、裁判官が予断と自白調書に引きずられて判断したこと、第4に、少年審判において適正手続の保障・厳格な証拠法則がなく、警察・検察が作成した捜査報告書がそのまま証拠として裁判官の判断に影響を与えたこと、第5に、捜査段階のみならず家庭裁判所の第1回審判期日においてさえ、少年らに弁護士が付いていなかったことである。


現在、国会に少年法「改正」法案が上程されているが、当連合会は、かねてから捜査・少年審判での適正手続の保障を求め、現行職権主義構造での検察官関与に強く反対してきた。前述した本件の主要な問題点及び最高裁判所判決をみれば、同法案では本件のようなケ-スの発生を防止することにはならず、かえって少年えん罪事件を増加させるおそれを裏付けている。


よって、当連合会は、重ねて少年法「改正」法案に対し、強く反対するものである。


あわせて、当連合会は、捜査および審判の各段階における国費による弁護士援助制度の実現を求めるとともに、当連合会の1998年7月の「少年司法改革に関する意見書」と1999年10月の「犯罪被害者に対する総合的支援に関する提言」に基づき、あるべき少年司法制度の改革にむけて全力を尽くす決意である。


2000年(平成12年)2月7日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹