「民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱」に対する会長声明
本日、法制審議会は、公務文書の文書提出命令に関する「民事訴訟法の一部を改正する法律案要綱」を答申した。一昨年、第136回国会における民事訴訟法改正案の審議において、公務秘密文書について、監督官庁が承認しないものは一律文書提出命令の対象から除外され、いわゆるインカメラ手続の対象にもされないなど、不合理な官民格差を生じ、司法判断の及ぶ範囲が狭められていたことに各界から批判が集中し、修正削除されたうえ、附則と附帯決議によって政府に対し、再検討が求められるに至ったことは記憶に新しい。
法制審議会において、上記附則と附帯決議を踏まえて、本要綱案を作成すべく努力されたことについては敬意を表したい。
しかし本要綱は、(1)文書提出義務を全ての文書に一般化すること、(2)公務文書の提出義務の存否の実質判断を裁判所ができるようにすること、(3)公務文書についてもインカメラ手続の対象とすることなど、上記附帯決議が要求していた趣旨に照らすとなお不十分な点が多い。
とりわけ「刑事訴訟記録等」を一律に文書提出命令の対象から除外していることは明らかに不合理であり、今日、様々な民事・行政訴訟で刑事訴訟記録が立証手段として果たしている重要な役割に照らすと到底容認できない。
また文書提出命令の除外対象となる「公務秘密文書」の定義が広きに失することや公務文書について濫用されるおそれも強い「専ら文書の所持者の利用に供する文書」という提出除外事由を認めていることも問題である。
さらに「防衛・外交文書」と「犯罪・捜査文書」について、監督官庁が提出義務がないとの意見を述べたときは、裁判所は、提出義務の存否そのものでなく、意見の相当性について審査するとしている点も、司法権尊重の上記附帯決議の趣旨に照らすと問題があると言わざるを得ない。
インカメラ手続について、「防衛・外交文書」や「犯罪・捜査文書」については事実上、その対象とされないおそれが強いことも批判されるべきである。
提出除外事由に該当しないことの立証責任を申立人に課していることも、情報公開法案においては、官庁が不開示事由の立証責任を負っていることと対比すると整合性を欠き、国民に過大な負担を課するおそれが強い。
当連合会は、この要綱に基づく法律案が国会に提案される場合には、以上のような点についてその修正を求めて、国会の内外において、全力を尽くす決意である。
1998年(平成10年)2月20日
日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫