「文芸春秋」「新潮45」各紙に対する会長声明

昨年5月に神戸市内において発生した小学生殺傷事件について、株式会社文藝春秋は、今月10日に発売された「文藝春秋」において、この事件によって保護処分を受けた少年の検察官に対する供述調書7通のほぼ全文を掲載した。


同誌は、これらの調書がこの事件をめぐるさまざまな問題の解答を考えるために絶対に欠かせぬ出発点であり、少年法の精神もさることながら言論の自由と国民の知る権利を重くみたことから、あえて掲載を決意した旨述べている。


殊に、同社が入手した供述調書は本来ならば公開されるはずのないものであって、入手経路が不透明なまま、あえて少年法の理念に背馳するような方法で掲載されていること、また、この時期に公表に及ぶことの被害者及びその家族に与える影響を考えると、犯罪報道に関するメディアのあり方として危惧感を覚えるものである。


また、株式会社新潮社は、今月18日に発売された「新潮45」において、本年1月8日に堺市において発生した通り魔事件の犯人とされる少年について、その実名をあげて出生の秘密、家庭状況、前歴等について触れた詳細なルポルタージュを掲載し、併せて中学校当時の顔写真を掲載した。しかしながら、これは、少年の健全な保護と育成をはかるために少年と特定できるような記事と写真の掲載を禁止した少年法第61条に違反するものである。


同誌は、このルポルタージュが少年法に抵触することを認識しつつあえて掲載した理由として、少年法が著しく現実と乖離していることなどをあげているが、その述べるところは掲載を正当化する理由にはなり得ないばかりか、法軽視の社会風潮を助長するものであって、社会的責任を果たすべきメディアとして到底許されるものではない。


当連合会は、これまでも少年法の精神を遵守して少年及び関係者の人権を侵害することのないよう報道機関に要請してきたところであるが、少年法の精神を尊重し、併せて自ら定めた報道に関する倫理綱領に沿った報道をされるようあらためて強く要望する。


1998年(平成10年)2月19日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫