法制審議会少年法部会の要綱採択に関する会長声明

法制審議会少年法部会は、本日、要綱骨子を採択した。


要綱骨子は、少年審判を裁判官の立場からより運営しやすくすることと、検察官の立場から厳罰主義的視点を審判に導入することの二点が前面に出ており、憲法や国際人権法が求めている適正手続保障や被害者の権利という視点を軽視している。そこには、少年の言い逃れを許さないという少年への不信感が強く根底にあり、刑罰対象年齢の引下げなど少年に対する厳罰化の動きと相まって、少年自身の立ち直る力を信じ、その支援を目指すという少年法の理念そのものの大幅な変更をもたらす危険性を有しているので、到底賛成できない。


要綱骨子には以下のとおりの問題がある。


  1. 現行の職権主義構造の下で検察官関与を認めていることである。捜査機関から送られた証拠を裁判官は予め目にしないという予断排除の原則を審判手続に導入せず、かつ取調べ過程の録音ないし録画や弁護人又は保護者の立会いのない少年の自白調書の証拠能力を否定するという証拠法則及び伝聞証拠排除法則を採用しないまま、裁判官と検察官が少年と相対するという審判を現出させるものである。これでは、大人よりも防禦能力の弱い少年が、大人の刑事事件よりもはるかに不利益な状態におかれることになる。
  2. 検察官が関与する事件の範囲が「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪」と極めて幅広いことである。しかも、関与の対象を犯罪事実に限定せず、「当該犯罪に密接に関連する重要な事実」を認定するために必要な場合にも検察官を出席させることができるとしている。その結果、非行の動機、共犯事件への係わり方、犯行後の情状等少年の処遇決定の要素となる事実の認定にも検察官が関与してくることは避けられず、検察官への抗告権付与と相まって、少年審判のケースワーク機能を大きく後退させることになる。
  3. 必要的弁護士付添事件を検察官の関与した事件に限定していることである。弁護士たる付添人の援助を求める権利は、憲法、国際人権(自由権)規約、子どもの権利条約が保障する基本的人権である。この観点から、要綱骨子は見直されなければならない。なお、同部会の審議においては、弁護士付添人の役割と必要性について共通の認識に達し、今後、関係各方面で引き続き議論を深める必要性が指摘された。当連合会は弁護士付添人の拡充・整備に向けて国民各層や関係機関に働きかけを強めていく決意である。
  4. 少年の要保護性の審理のためにも合議制をとることができるとしていることである。これでは少年の処遇決定過程において裁判官が1対1で少年に働きかけを行い少年の更生を促すという審判のケースワーク機能を大きく後退させる危険が高い。
  5. 観護措置期間について最長12週間まで延長することを認めていることである。捜査段階における23日間の逮捕・勾留期間を含めると、少年は実に約4ヶ月も身体を拘束されることになり、少年に与える影響は甚大なものとなる。
  6. 「保護処分終了後における救済手続の整備」(再審制度)や「被害者等に対する少年審判の結果等の通知」については、当連合会もその方向性に賛成であるが、要綱子の内容は不十分である。また被害者への情報開示を被害者の権利の視点から位置付けていないことに根本的な問題がある。

弁護士委員は、上記の要綱骨子の問題点を批判し、弁護士委員試案骨子(以下「弁護士試案」という)を提出した。


弁護士試案は、少年法の保護主義の理念を護り、少年への適正手続の保障と被害者の権利を尊重したものであり、(1)身体を拘束された少年等には必ず弁護士である付添人を付すこと、(2)証拠法則等に関する適正手続保障を明文化すること、(3)非行事実が争われる一定の重大事件で少年の選択により、予断排除原則を採用した審判手続を設けること、(4)一定の要件で被害者への審判の経過等を説明したり、確定記録の閲覧、謄写を認めること等を内容としている。


さらに、弁護士委員は、児童福祉や教育関係者、家庭裁判所調査官、保護矯正関係者など国民各層の声を広く聴取すべきであると主張し、さらに弁護士試案の検討を含め十分審議すべきであると主張したにもかかわらず、審議を十分尽くさぬまま結論を急いだことは極めて遺憾である。


当連合会は、再審制度の創設及び被害者への審判結果等の通知を除いては、要綱骨子に基づく少年法「改正」には強く反対するものである。


1998年(平成10年)12月11日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹