国際人権(自由権)規約委員会の最終見解に対する会長声明

国際人権(自由権)規約委員会は、1998年11月6日、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、自由権規約という)の実施状況に関する第4回日本政府報告書に対して、同年10月28日、29日に行われた審査を踏まえ、最終見解を発表した。同委員会は、自由権規約が実効的に批准国において実施されているかどうかを監視する目的のもとに、同規約自体に基づいて設置された機関であり、わが国は、同規約の批准国として、委員会から勧告された点につき改善に向けて努力する義務を負う立場にある。5年前に行われた第3回の報告書審査の際、委員会が日本政府に対して示した最終見解のうち、女性の雇用差別問題、指紋押捺制度問題、アイヌ問題等に関し、この5年間に一定の改善がなされたこと及び日本政府が今回26名もの代表団を派遣する熱意を示したことは、評価できるものである。


しかし、最も改善を要するとされた四点の勧告事項、すなわち、(1)第一、第二選択議定書及び拷問等禁止条約の批准、(2)婚外子差別の解消、(3)死刑を定めた犯罪を減少させ、また死刑囚の処遇を改善する問題、及び(4)代用監獄廃止、接見指定制度、証拠開示問題については、この5年間において、結果としてみるべき改善措置が講じられなかったことが、今回の審査で委員会から改めて指摘された。これについて、日本政府代表が新たな改善策について積極的な姿勢を示さなかったことは遺憾であると言わざるをえない。


他方、最終見解では上記の点も含め29項目にわたる詳細な勧告がなされたが、とりわけ今回新たに指摘された中で、日本の人権状況を改善するための制度的な措置として、特に注目すべきは以下の二点である。


第一点は、裁判官に対する国際人権法教育である。審査において委員からは、日本の裁判所が自由権規約を適切に解釈せず、あるいは規約の効力について誤解している例が多いとして、問題性を指摘する声が相次ぎ、委員会の最終見解においても、裁判官に対し自由権規約に関するセミナー等を開催するよう勧告がなされた。


第二点は、政府から独立し、独自の調査権限を有する実効的な国内人権救済機関の設置である。わが国の人権擁護委員制度は、国内人権救済機関についての国際基準であるパリ原則(1993年国連総会決議)に沿ったものではない。このような国内人権救済機関は、インド、インドネシア、フィリピンを初めとするアジア諸国にもすでに設置されており、わが国においてもその設置を図ることが急務である。


最後に、委員会は、NGOと政府とが不断に対話することにより、わが国の人権状況を改善する努力を行うべきである旨の異例の勧告を行った。


当連合会は、今回の国際人権(自由権)規約委員会の審査とその最終見解において、委員会が指摘した諸問題を日本政府が誠意をもって受けとめ、その解決に向けて努力することを強く求めるとともに、新たに指摘のあった裁判官をはじめとする法曹ならびに行政官に対する国際人権法教育および国内人権救済機関の設置を含め、その実現に努力していく所存であることを表明するものである。


1998年(平成10年)11月10日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹