寺西和史判事補に対する戒告処分決定に関する声明

平成10年7月24日、仙台高等裁判所特別部は仙台地方裁判所寺西和史判事補に対する戒告処分を決定した。


その理由とするところは、同判事補がいわゆる組織的犯罪対策三法案に反対する市民集会に出席して行った発言が、裁判所法52条1号後段によって禁止されている「積極的に政治運動をすること」に該当し、同法49条所定の職務上の義務に違反したというものである。


裁判官も裁判官である前に国民として、思想信条の自由、言論・表現の自由が保障されなければならないことは当然であり、このことは当連合会がこれまで再三にわたって宣明してきたところである。


民主主義国家における裁判に対する国民の信頼は、自分たち市民と区別された無色・透明な孤高の人々によって裁かれているということではなく、自分たちと同様に個人として自由な思想をもち、かつ表明し、喜びや悩みを共有できる裁判官による裁判への期待にもとづいている。したがって、裁判官に最大限の市民的自由を保障できるよう、ゆとりと条件を整える必要がある。市民は裁判所が市民にとってさらに身近な存在になることを求めている。


また「積極的に政治運動をすること」を理由とする分限裁判についてはその結果するところが極めて重大であることを考えれば、慎重のうえにも慎重を期す必要がある。


当連合会としては、このような観点から本決定およびその経過を見るとき、同判事補の行動について上記禁止規定を具体的に適用するに際して、「政治運動の意義ないし範囲」、さらには禁止される「行動の態様、程度」について憲法上の観点からの十分な検討が尽くされ、明らかに示されるべきものと考える。


1998年(平成10年)7月31日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹