パキスタンの核実験に抗議する声明

パキスタン政府は、去る5月28日に引き続き同30日の2度に亘り、同国西部バルチスタン州山地の核実験場にて合計6回もの地下核実験を行った。


この核実験は、先のインド政府が行った核実験に対し、世界中から圧倒的な批判がなされ、パキスタン政府に対しても、このインドの核実験に対抗して核実験を実施しないよう強く自制を求めていた国際世論を無視して強行されたものであるばかりか更なる核拡散への途を開きかねないものであって到底容認することはできない。


申すまでもなく、核兵器の使用は、人間の生命や健康に深刻な被害を与え、人類にとってかけがえのない地球環境を回復不可能に破壊するものであり、その使用や実験は人類にとって最大の人権侵害であり国際法に違反することは明らかである。


このため国際社会は、1995年5月に核拡散防止条約(NPT)の無期限延長を決め、1996年9月に包括的核実験禁止条約(CTBT)を成立させるなどして、核兵器の廃絶とあらゆる核実験の禁止は世界の共通の願いになっている。 パキスタンのシャリフ首相は「広島、長崎への原爆投下は、日本が核兵器能力を持っていたら起こらなかった。」と述べ、今なお核抑止力に依存する思考を表明している。しかし、唯一の被爆国の国民として到底この発言を容認することはできない。また核兵器の保有が核攻撃を抑止するというのは危険な幻想でしかない。パキスタン政府に対して強く抗議の意を表明し、インド政府に対すると同様、今後一切の核実験を中止し、CTBTを無条件で調印する等の国際的な核兵器不拡散に向けて努力するよう求める。


核兵器と人類は共存できるものではなく、核兵器の全面的廃絶こそ人類が平和に生存できる第一歩である。核兵器保有国も他国の核実験を批判するばかりではなく、自国に保有する核兵器の削減に向け努力し、これ以上の核兵器の軍拡競争が生じないよう努力すべきである。


当連合会は、今回のパキスタンの核実験がさらに他国の核開発の誘発を生じないことを願うと共に、日本国政府が、あらゆる国の核兵器の製造・実験・保有の全てに反対し、この地球上から核兵器が廃絶されるための国際的合意形成をかちとるため、真剣な努力を行うことを強く希望するものである。


1998年(平成10年)6月5日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹