「寺西判事補への裁判官分限法に基づく懲戒の申立に関する会長声明

仙台地方裁判所は本年5月1日、仙台高等裁判所に対し、同地裁寺西和史判事補について裁判官分限法に基づく懲戒の申立をした。申立ての理由によれば、同判事補が本年4月18日、いわゆる組織的犯罪対策三法案に反対する集会に参加し、「多数の者が集まった会場において、仙台地方裁判所の裁判官であることを明らかにした上、『集会でパネリストとして話すつもりだったが、地裁所長に処分すると言われた。法案に反対することは禁止されていないと思う。』旨の発言をし、言外に右法案に反対する意思を明らかにして同法案に反対する運動を盛り上げ、もって、集会主催団体の主張を支持する目的で、裁判官という職名の有する影響力を利用し、多数の者が集まる集会で同主張を支持する趣旨の発言をしたものである」とし、これが「裁判所法第52条1号にいう『積極的に政治運動をすること』に該当し、同法49条にいう職務上の義務に違反した」とするものである。


憲法上の基本的人権にもとづくものとして国民に保障されている政治参加および政治的諸活動の自由は、裁判官といえどもまた当然享受し得るところである。裁判官の場合、その職権の独立と公正の維持の観点から、その権利の享受に一定の内在的制約がありうるが、政治活動の自由という基本的権利を事実上失わせるようなことがあってはならない。従って、何が「積極的政治運動」であるかについては、憲法上の権利保障を基本にして慎重かつ厳格に解釈される必要がある。


今日、国民としての基本的権利を十分に享受している裁判官こそが独立して公正・公平な裁判を実現できるという考えが世界の潮流となり、世界各国において裁判官が政治的課題等についても自由に意見表明している例が多い。それらに照らしても、わが国の裁判官の行動の自由は、あまりにも制約されすぎている感がある。今回の同判事補に対する分限裁判においてどのような判断が示されるかによっては、わが国の裁判官の行動の自由がさらに制約される方向に向かうのではないかと危惧される。


当連合会は、本件分限裁判においては適正な手続のもとに事実関係および法律論に関する個別の論点について慎重な審理を行い、裁判官の行動が自由、闊達であることがむしろ独立・公正・公平な裁判の実現を保障するものとの考え方に立って、国民が納得できる妥当な結論を出されることを求めるものである。


1998年(平成10年)5月22日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹