「定期借家権」導入に関する会長声明

新聞報道によれば、与党定期借家権に関する協議会において定期借家権の導入についての合意がまとまり、今国会にも借地借家法改正案が提出される状況にある。


同改正案は、貸主や借主の個別事情、建物の用途や規模にかかわらず、新規契約については定期借家契約を認め、更新拒絶等に「正当事由」を要件とする現行の借家契約と自由に選択できるものとし、これにより、優良な賃貸住宅の供給促進、土地取引の活性化を図ることができるとして緊急経済対策の一環と位置づけている。


しかしながら、当連合会は、現時点において定期借家権を導入することには反対である。


居住用、業務用の区別なく、また、当事者の個別事情にかかわらず定期借家権を導入すれば、住宅総数の約3割を占める借家人の生活や業務は不安定となり混乱に陥ることが予想される。改正案は、当事者が自由に契約を選択できることを前提にしているが、一般的に、借家人が家主と全く対等な立場で自由に契約を成立させることはむしろ稀であり、借家人は家主の要求に従わざるを得ないことの方が多いと考えられる。また、高齢者、母子家庭、長期療養者等社会的弱者に対する配慮、公営住宅の整備充実を掲げるが、整備目標も設定されておらず、対策として何ら具体性がなく不十分なものと言わざるをえない。


平成9年12月、法務省の借地借家等に関する研究会から発表された「論点に関する意見の概要」では、数多くの団体が一般の定期借家権の導入に反対する意見を寄せていた。法務省では、平成10年2月から法制審議会民法部会借地借家法小委員会において本問題につき審議していたが、与党協議会が同審議会の議論を待たずに定期借家権導入を決めたのは甚だ遺憾である。与党協議会が強調する経済効果については識者からの指摘のとおり疑問のあるところである。


当連合会は、これまでも借家契約における正当事由の廃止及び一般定期借家権の創設に反対する旨の意見を表明してきたが、ここに改めて定期借家権の導入に反対の意を表明するものである。


1998年(平成10年)5月1日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹