地球温暖化対策推進法案に関する会長声明

4月17日、環境庁が今国会に提出する「地球温暖化対策推進法案」の内容が報道された。


日本は、京都会議の議長国として、排出取引や吸収源カウント等に依存することなく、1990年レベルから6%削減という目標達成のために国内対策を強力に推進する重大な責任を負っている。1997年度には1990年レベルより10.5%も増加していると予測されており、今後12年間に実質16.5%もの削減が必要になることを考えれば、直ちに対策に取り組むために、今国会で温暖化防止を直接の目的とする法律を制定する必要があることは言うまでもない。


日弁連は、昨年の「地球温暖化防止のための日弁連提言」において、環境庁に権限を統合し、産業部門における総量規制や炭素税の導入等を盛り込んだ総合的な地球温暖化防止法の制定を提言した。6%削減の達成のためにはこのような強力な対策が不可欠である。今国会での立法において、総量規制や炭素税等の導入は間に合わないとしても、事業者に削減に取り組ませる第一歩として、3月の中央環境審議会の中間答申にあるように、工場・事業場ごとに排出削減計画の作成を義務づけてその実効性を確保する仕組みを導入することは、最低限必要な事項である。


ところが、今回報道された法案では、事業者の排出抑制計画の作成と公表が努力目標に止められ、事業者に対する規制が骨抜きにされようとしている。このような法案では、法制化の出発点としても極めて不十分であり、これでは6%削減の達成は不可能であると言わざるを得ない。


環境庁が1月に中央環境審議会企画政策部会で報告した同法案の骨格では、事業者に排出削減計画の作成と知事への提出を義務づける内容であったものが、上記のように後退した内容にされようとしているのは、通産省及び産業界が、通産省所管の「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)による規制と二重規制になるなどの理由で、環境庁の温暖化対策推進法による事業者への規制に反対していることが大きな要因である。確かに、今国会に提出されている省エネ法改正案は、指定工場にエネルギー使用合理化計画の提出を義務づける等、温暖化防止のための施策の前進と評価できる内容を有してはいるものの、エネルギー使用の合理化だけでは温暖化防止対策として極めて不十分である。当面は、温暖化対策推進法による温室効果ガス排出削減計画のうちの省エネルギーに関する部分を省エネ法によって実施させることとしても、将来的には、省エネ法の施策を環境庁が所管する総合的な温暖化防止法に組み込むべきである。


したがって、今国会に提出される温暖化対策推進法においては、少なくとも、事業者に対し、事業場ごとに削減計画の作成及び責任者の配置を義務づけ、計画の届出・公表、知事等の勧告・立入調査権限や違反の場合の公表・罰則の規定を設けること等によってその実効性を担保する制度的仕組みを盛り込むべきである。


1998年(平成10年)4月27日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹