「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案」に対する会長声明

政府は、今国会に、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案(以下、「改正案」という。)を提案し、この改正案は、4月10日、参議院を通過し、現在衆議院に送られている。


この改正案は、インターネット等を用いて客にポルノ映像を伝達する営業者について、映像送信型性風俗特殊営業者(以下、「映像業者」という。)として、新しく公安委員会への届出制を採用し、18才未満の者を客とすることの禁止等を定め、同法の規制の対象としている。届出義務違反等には刑罰が科せられる。


また自動公衆送信装置設置者(プロバイダー)に対しても、その送信装置に、映像業者が、わいせつな映像を記録したことを知った場合、当該映像の送信を防止するため必要な措置を講ずる努力を義務づけて、同法の規制の対象としている。


さらに、これらの義務違反について、公安委員会が、映像業者に対し、広範な指示権や措置命令権を持ち、また、プロバイダーに対し、広範な措置勧告権を持つこととなっている。


しかし、この改正案には、次のような重大な問題点がある。


  1. プロバイダーが、わいせつな映像の送信を防止するため必要な措置を講ずる努力義務を怠ったときは、公安委員会(実質的には警察)が、プロバイダーに対し、必要な措置をとるよう勧告できることになっているが、公安委員会の措置勧告権の内容が、極めて漠然としており、抽象的で曖昧であり、警察による映像内容の検閲になるおそれがある。
  2. プロバイダーは、事実上、全ての映像について、わいせつな映像の送信を防止するための努力義務を負うことになり、「わいせつ」概念の不明確性からも、映像業者が作成した映像については、プロバイダーによって、ほとんど全て恣意的に送信が止められるおそれがあり、映像業者の表現の自由が制限されるおそれが強い。
  3. プロバイダーは、電気通信事業法により、検閲の禁止、通信の秘密の保護を定められており、改正案は、これらの保護を侵害するおそれがある。
  4. 国会に提出されている通信傍受法案とあいまって、インターネット通信分野への警察規制が強まることになり、インターネットを利用した表現の自由が制約されるおそれがある。

この改正案は、表現の自由の制限、通信の秘密の保護の侵害、映像送信の検閲等基本的人権を侵害するおそれが強い。よって、当連合会は改正案のうち、上記の点に強く反対する。


1998年(平成10年)4月24日


日本弁護士連合会
会長 小堀 樹