臓器移植法案の採決結果に関して
本日、二つの臓器移植法案について、衆議院本会議で採決が行われ、中山太郎議員らが提案した「脳死を人の死とする臓器移植法案」が可決され、金田誠一議員らが提案した「脳死を人の死としない臓器移植法案」は否決された。
しかし、記名投票の結果をみると、「脳死を人の死とする臓器移植法案」に賛成した議員は320名(64%)、他方、180名(36%)の議員が同法律案に反対か少なくとも同意できないという意思表示をしている。
これは、脳死を人の死とする社会的合意がないまま、人の生死という人間の尊厳にかかわる問題を多数決原理による国会で決めることにためらいを感じた議員が相当数にのぼったことによるものと思われる。
衆議院における臓器移植法案の審議は、本年3月31日に「脳死を人の死としない臓器移植法案」という対案が提出されて、ようやく論点が明確となり、両法律案の違いやその理由などが審議の中で明らかになりはじめた。しかし、審議があまりに急ピッチで進められたため、「脳死を人の死としない臓器移植法案」に対する質疑は、4月15日の厚生委員会で行われたのみで、同法律案について国民の意見を聞く公聴会も実施されておらず、脳死患者の人権を尊重する同法律案の意義などが国民や議員に理解される機会も十分でなかった。
人の死というきわめて重大な問題についての審議としては、あまりにも不十分な審議であったといわざるをえない。
参議院では、すでに、「脳死を人の死としない臓器移植法案」が提案されており、今回、衆議院で可決された「脳死を人の死とする臓器移植法案」とともに審議が開始される。参議院では、両法律案について、十分な審議時間をとって、できるだけ多くの国民の意見を聞き、脳死を人の死とする法律を制定した場合に生ずる問題点や「脳死を人の死としない臓器移植法案」の意義などについても議論を深め、慎重で充実した審議が行われるよう強く要望する。
当連合会は、かねてより、脳死を人の死とする社会的合意が認められない段階において、脳死を人の死とすることによる人権侵害の危険や現行諸法規との整合性の欠如などを指摘し、脳死状態からの臓器移植の実現のために脳死を人の死とする臓器移植法を制定することに反対してきた。そして、脳死患者の人権を保障しつつ、国民の多くが望む脳死状態からの移植医療の道を開くという立場から、「脳死を人の死としない臓器移植法案」を提案してきた。
当連合会は、今後とも、法律実務家の立場から、国民や国会に対して、脳死と臓器移植問題について、国民的な論議の活性化のために、意見を表明し、その役割を果たしていく所存である。
1997年(平成9年)4月24日
日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫