事件報道における被害者の人権擁護に関して

当連合会は、1987年の第30回人権擁護大会で採択した「人権と報道に関する宣言」にのっとり、これまでマスメディアに対し、事件報道の被害者については報道の必要性(公共性・公益性との関連)を慎重に判断し、被害者の名誉・プライバシーをみだりに侵害しないよう、また、家族への影響にも十分留意するように求め、被害者名を匿名にすることや報道内容を必要事項に止めるなど、報道による二重の被害を及ぼさないよう提言してきた。


ところが、本年(1997)3月19日、遺体で発見された電力会社の女性社員についての報道は、一部に冷静な姿勢も見られるものの、特に夕刊紙やスポーツ紙、週刊誌、テレビなどの多くは、女性差別の色濃い、興味本位で憶測を交えたセンセーショナルなもので、被害者のプライヴァシーを著しく侵害するものである。


報道の自由は、公共性・公益性のある事項について、市民の知る権利に奉仕するためのものである。そうした必要性の認められない事件被害者についての、興味本位で死者を鞭打つような行き過ぎた報道について、当連合会は次の事を促したい。


1. 関係報道機関に対して
速やかに被害回復のための是正措置をとること。
2. マスメディア全体に対して
報道倫理の確立とこうした報道が繰り返されないための制度的な工夫を講ずること。

そのための方策として、当連合会は、先の宣言に基づき、新聞や週刊誌など活字マスメディアに対して、報道被害救済のための自主的な審査救済機関(報道評議会など)を早急に設置するよう強く要望する。


1997年(平成9年)4月11日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫