臓器移植法案の審議にあたっての談話

議員提案にかかる「臓器の移植に関する法律案」が、従来の法律案の一部を修正したうえで、昨年12月11日に衆議院に再提出された。この新しい法律案(以下、「新法案」という)について、明日3月18日の本会議で趣旨説明と質疑が行われ、同法律案についての審議が開始されることとなっている。また本日、議員有志による「脳死を人の死としない臓器移植法律案(骨子)」が公表された。


当連合会は、1995年3月17日(同10月17日改訂)の意見書において、従来の法律案に関して、脳死状態を人の死とする社会的合意はできていない、脳死状態での臓器移植は、ドナーカードなどドナー本人の臓器提供の明確で自発的な意思を確認できる書面がある場合に限る、脳死判定後でも脳死状態の患者があくまでも人権の主体であることを基礎に個人の尊厳を最後まで保ちながら、死を迎えることができるよう留意する、摘出、移植を実施する医療施設は、日常診療などにおいてもカルテの閲覧謄写権、患者の自己決定権など患者の権利が十分に保障されていなければならない、との基本的立場を表明している。


昨年12月に国会に提出された新法案は、脳死状態からの臓器摘出を提供者の書面による提供の意思表示がなされている場合に限ると要件をしぼったものの、「脳死は人の死」としたままである。脳死を人の死とする社会的合意がないまま、脳死状態の患者を「死体」として取り扱う立法がなされた場合、さまざまな人権侵害の危険や法的、社会的な混乱が生ずることは、当連合会もかねてより指摘してきたところである。


本日公表された議員有志による「脳死を人の死としない臓器移植法律案(骨子)」は、脳死を人の死とせずに、本人が脳死状態からの臓器提供の意思を書面で表明している場合には、一定の要件のもとに脳死状態からの移植を認める立場に立っている。これは、当連合会の基本的立場と同じ趣旨のものと評価できる。


長い間にわたり継続審議とされてきた臓器移植法案について、このたび、二つの立場の具体的提案が法律案として国会審議の対象となるに到ったことは、問題点を明らかにし、国会内外における議論を活発に行うのに資するものである。


双方の法律案の問題点の審議を尽くし、「人の死」についていろいろな考え方があることに配慮し、かつ臓器移植を待ち望む人たちの願いにも応えうる途が開けることを期待するものである。


1997年(平成9年)3月17日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫