「労働時間法制及び労働契約等法制の整備について(建議)」に対する会長声明

1.

本日、中央労働基準審議会は、労働大臣に対し、「今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方」について建議を行った。


日弁連は、本年10月、「『今後の労働時間法制及び労働契約等法制の在り方』に関する労働省試案及び中央労働基準審議会部会の『中間的とりまとめ』に対する意見書」を発表し、また10月23日開催の人権擁護大会において、「時間外・休日・深夜労働について男女共通の法的規制を求める決議」を採択し、労働時間や労働契約の規制緩和に反対し、男女共通の時間外・休日・深夜労働の規制を求めてきた。今回の建議は、日弁連の意見書及び決議とは大きな隔たりをもつものとなっており、誠に遺憾である。


2.

建議では、「労働者の主体的な選択の可能性を広げ、併せて労働者保護及び職業生活と家庭生活との調和の観点から、労働者が健康で安心して働ける環境の形成を図る」としているが、その内容は、これに相反するものといわざるを得ない。


建議は、裁量労働時間制を、本社及び他の事業場の本社に類する部門における企画・立案・調査及び分析の業務について拡大しようとしている。裁量労働制は、いかに長時間に及んでも、みなし労働時間制によって、労働時間の上限規制をなくし、かつ時間外手当を削減して賃下げにつながる。今回の業務はホワイトカラー全般に及ぶ可能性があり、労使委員会の歯止めは必ずしも期待できない。裁量労働時間制の拡大は、長時間・過密労働に拍車をかけるものといわなければならない。


建議は、1年単位の変形労働時間制の所定労働時間の限度を、期間の長短にかかわらず、1日10時間、1週52時間とし、さらに対象者の範囲を拡大している。変形労働時間制による労働時間の弾力化は、1日の労働時間を延長するとともに、不規則労働を強いる結果となる。変形労働制をさらに弾力化することは、1日8時間、週40時間制を根本から崩すことになり、家庭生活と職業生活との両立はますます困難となるであろう。


建議は労働契約期間の上限を、「当該事業場で確保することが困難な高度の専門的な知識、技術又は経験を有する労働者等」について3年に延長するとしている。これは、雇用主の恣意的な意図に基づく労働期間の制限を可能にし、雇用を不安定にする。


3.

さらに重要なことは、女子保護規定の撤廃に伴ない、国会でも付帯決議された男女共通の労働時間規制について、法的規制が提案されていないことである。単に、労働時間の上限に関する基準を定める根拠を法定するのみで、法的強制力もなく、現在の長時間労働をなくすことは期待できない。また、深夜労働に関しては今後の検討課題とされており、これでは、家庭責任を負っている女性労働者にとっては、ますます過酷な労働条件となることが懸念される。


4.

今回の建議は、その内容が従来の労働法制を、特に労働時間について根底から覆しかねないものであるにもかかわらず、7月2日の労働省試案が示されてから、わずか半年余りで、かつ労使、公益各委員の合意もないまま発表されたが、議論が不十分で初めに結論有りきの観を否めない。


上記のような建議の発表に反対するとともに、労働省に対し、今後の法改正作業に当たり、本来の労働基準法の趣旨にそった検討を十分されるよう求めるものである。


1997年(平成9年)12月11日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫