中学校社会科教科書における「従軍慰安婦」の記述に関する会長声明
本年度より中学校社会科(歴史的分野)の文部省検定教科書に「従軍慰安婦」の記述が記載されることになった。
ところが最近、岡山県、鹿児島県ほか多数の県市町村議会に、同記述の削除等を求める請願等がなされ、既に採択した議会もある。
当連合会は、1993年、第36回日弁連人権擁護大会において「戦争における人権侵害の回復を求める宣言」を採択し、そのなかで、「戦争の実相を後世に正しく伝える教育を行うべき」ことを指摘し、日弁連は「その実現のため全力を尽くす」旨宣言している。
また、日弁連がまとめた「『従軍慰安婦問題』に関する提言」(1995年1月)は、歴史教育について「このようなことを二度とくり返さないためにも、歴史教科書への事実の記載は、不可欠である」と提言している。
子どもの権利条約第29条第1項(d)は、子どもが「すべての人民や民族間の理解と、平和、寛容の精神に従い、自由な社会において責任ある生活をするために子どもに準備させること」を教育において指向すべきことと規定している。国際化の進んでいる今日、われわれやわれわれの子どもたちは、良きにつけ悪しきにつけ自国の歴史的事実を認識して、自主的判断力をもって国際社会の仲間入りをすることが必要である。
「従軍慰安婦」制度は、当連合会の前記提言が明らかにしているとおり、わが国が過去におかしたアジア地域の女性に対する組織的暴力であり、女性及び外国人に対する差別でもある。これは、われわれ日本人にとっては、直視したくない歴史的事実である。しかし、われわれは、この事実から目をそらすことなく、当連合会の前記提言のとおり、二度とこのような過ちをおかさないために、「従軍慰安婦」の事実を歴史教科書に記載して、子どもたちに伝えていくことが必要と考える。
よって、当連合会は、各地方議会に対し、上記趣旨を十分理解し、教科書からの記述の削除等を求める請願等を採択しないよう求める。
1997年(平成9年)5月1日
日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫