民法改正案の国会上程見送りに対する会長声明

  1. 本日、長尾法務大臣は、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別を撤廃すること等を内容とする民法の一部改正案の今国会への上程を見送る旨発表した。当連合会は、今国会における上記民法改正案の上程を求めて4月26日にも会長声明を発表したものであり、当連合会の要請が実現されなかったことは誠に残念である。今回の民法改正は、1991年以来約5年の間,法制審議会が議論を重ね、各界の意見を聴取したうえで,本年2月に、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別の撤廃等を内容とする民法改正要綱を答申したものであり、広く国民の議論に付すべく今国会に上程される予定であった。ところが政府与党内の意見調整ができず、結局上程見送りとなったものである。
  2. 現行民法は、結婚にあたり夫婦同姓を強制して、どちらかが結婚前の姓を改姓しなければならない。その結果、夫の姓を称する夫婦が圧倒的に多く、妻の姓は夫と平等に尊重されているとはいえない。
    価値観・生き方の多様化する現在、別姓を望む夫婦にまで同姓を強制する理由はなく、別姓も選択できる制度を導入して、個人の尊厳と平等を保障するべきである。1985年に日本が批准した女子差別撤廃条約は,姓(氏)及び職業選択を含めて、夫及び妻に同一の個人的権利を保障することを締約国に求めており、この観点からも選択的夫婦別姓制導入の早期実現が望まれるところである。次に、民法は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めている。だが、子には、両親が結婚しているかどうかについて,何の責任もない。
    非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等にすることは、嫡出子や正妻の権利を損ない、法律婚主義に反するとの批判もあるが、非嫡出子に対する相続分差別を廃した結果、嫡出子の権利が損なわれるとの考え方は、問題の立て方自体に誤りがあり、また、配偶者の相続分には何ら影響を及ぼさないのであって、法律婚主義にも抵触するものではない。国際人権(自由権)規約委員会は、1993年、日本政府に対し、非嫡出子の相続分差別が同規約に抵触するとして、法改正を勧告している。
  3. わが国も,上記2点の改正により,夫婦の姓の選択を可能とし,また,非嫡出子の相続分差別を撤廃することにより,成熟した社会を目指す必要がある。よって,当連合会は,政府与党に対し次期国会において,速やかに上記民法改正案を上程し,選択的夫婦別姓制の導入と非嫡出子の相続分差別の撤廃を速やかに実現することを強く求める。

1996年(平成8年)6月18日


日本弁護士連合会
会長 鬼追明夫