「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故に関する声明

1.

昨年12月8日、福井県敦賀市所在の高速増殖炉「もんじゅ」において、2次主冷却系の配管室でナトリウム漏えい・燃焼事故が発生した。


高速増殖炉は、炉心に猛毒物質のプルトニウムを大量に貯蔵し、核暴走事故の危険性があること、冷却材として使用されている金属ナトリウムは水や空気中で爆発的に化学反応する性質があることなどの危険性が指摘されてきた。


また、「もんじゅ」の建設費は、同規模の軽水炉に比べて設備費は数倍と言われ、商業的に成り立つか疑問が提起されていた。


このような安全性と経済性に関する問題点から、研究開発を進めてきたアメリカ、イギリス、ドイツなどの諸国も、その開発を中止している。


日弁連は、従来政府に対して、1994年5月「原子力行政に対する日弁連の提言」の中で、プルトニウムをエネルギー源とするエネルギー政策を変更するよう提言し、再処理工場の建設中止と「もんじゅ」の運転の停止を求めてきた。


2.

今回の事故については、まだ事故原因が完全に究明されていないが、従来危険性が指摘されていたナトリウムの大量漏えい事故が発生したことで、「もんじゅ」原子炉の危険性が現実のものとなったものであり、高速増殖炉開発の根幹に関わる重大な事故であると考えられ、誠に遺憾である。


伝えられるように、ナトリウムが温度検出管の折損によって漏えいしたのだとすれば、温度検出管自体の設計ミスの可能性が強く、また、折損した温度検出管によって炉内を傷付けた可能性も指摘され、同種事故再発の危険性は否定できない。ナトリウム検知の遅れ、事故時の停止措置の遅れ、事故直後の自治体への連絡の遅れ、事故後の科学技術庁への虚偽報告とビデオの秘匿、改ざんなど、動燃事業団の秘密体質と不十分な事故対策に激しい批判が集中している。


また、ナトリウムミストが原子炉内部に広範に拡散したため、配管や電気系統の腐食・劣化の危険性が指摘されている。


3.

政府は、この事故の原因調査を動燃や科学技術庁など「もんじゅ」の開発を推進してきたものに委ねようとしているが、現在進められている事故調査の体制には重大な疑問がある。事故調査の主体は、事故原因を作った当事者以外の独立の第三者機関が実施しなければ、公正な事故調査と言えない。科学技術庁は、「もんじゅ」の開発主体そのものであり、原子力安全委員会も安全審査によって事故を未然に防止できなかったという点では、この事故の当事者である。


4.

今回の原発事故の調査については、少なくとも航空機事故調査委員会に倣った事故原因者を除外した独立の事故調査団を組織し徹底的な調査を行うべきである。政府は、得られた情報すべてを公開し安全性が確認されるまで「もんじゅ」の稼働を凍結すべきである。


核燃料サイクルの将来については、政府は、上記の調査及び今回の事故のもつ潜在的な危険性、同種事故の再発の危険性、回収に要するコストなどを踏まえて、開発計画の停止を含めた抜本的再検討を行うべきである。


1996年(平成8年)1月9日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献