破壊活動防止法適用に関する声明

  1. オウム真理教に対して破壊活動防止法の団体解散の指定の規定を適用する動きが急浮上してきている。村山首相は、慎重対応の姿勢と伝えられているが、一時は、適用に積極的な法務省・公安調査庁の結論を尊重する方向を打ち出しており、法務省・公安調査庁は、引き続き適用に向けた作業を進めている。
  2. 当連合会は、昭和27年3月28日人権擁護大会の前身であった人権擁護委員会春季総会において、破壊活動防止法は「新憲法の精神に悖り、基本的人権を侵害するもの」として、その成立に反対の立場を決議した。
  3. 破防法は上記のとおり法律そのものが憲法上問題があるが、それとは別にオウム真理教への適用にも大きな問題がある。
    1. オウム真理教の今回の一連の行為は、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもって」なされたか否か、また現在のオウム真理教に「継続又は反復して将来さらに団体の活動として暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由がある」といえるかは疑わしい。
    2. 破防法8条は、解散の指定を受けた団体の役職員、構成員であった者は「団体のためにするいかなる行為もしてはならない」と規定し、違反者は処罰されることになっている。「ためにする行為」という要件があいまいで、信教の自由等との関係で問題をはらんでいるだけでなく、オウム真理教の構成員らの活動を徹底して禁止し、犯罪者として処罰するなら、処罰を恐れた彼らが地下に潜行してしまい、信者の社会復帰、家族のもとへの帰還等に多大の支障が生じかねない。
    3. 財産の管理上にも問題がある。破防法10条は、団体解散指定処分が「訴訟手続によってその取消を求めることのできないことが確定したとき」になって初めて、当該団体が財産整理義務を負うと規定している。財産整理を後回しにし、そのうえ団体の自主清算を認める破防法では、オウム真理教教団財産の一刻も早い凍結、清算を求める市民の声に反し、被害者の公正・迅速な被害回復の願いにも応え得ない。
  4. 6月30日東京都と東京地検は、宗教法人法によるオウム真理教に対する解散命令の請求を東京地裁に行い、現在審理が進められている。宗教法人法による解散命令の場合には、裁判所の選任する清算人によって清算手続が行われるのであるから、財産清算の上でも公正さを保つことができ、被害者の救済にも資するものとなる。宗教法人法による解散命令が一刻も早く出されることこそ現在の喫緊の課題である。
  5. 破防法の団体規制、解散指定の規定は、同法が成立して以来今日まで一度も適用されてこなかった。にもかかわらず、今回、適用要件もあいまいなまま、オウム真理教に対しこれが適用された場合、ことはオウム真理教への適用の適否にとどまらず、日本の民主主義、国民の人権にとって由々しき事態を招くこととなる。
  6. 当連合会は、オウム真理教への破防法の適用に反対するとともに、政府が将来に禍根を残さないようその政治責任を厳正に果たすことを強く要望する。

1995年(平成7年)10月6日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献