環境庁の「水俣病問題の解決について-調整案-」に関する声明

公害の原点といわれる水俣病は、その公式発見からすでに40年目を迎えている。当連合会は長年にわたり公害環境問題に取り組み、かねてから水俣病問題の早期解決が図られるよう何度も求めてきたものであるが、未だに解決をみていないことは極めて遺憾である。


しかし、6月22日に連立与党三党による水俣病問題の解決方針についての与党合意がまとまり、7月16日には村山富市首相からこの与党合意に基づき水俣病問題の最終的、全面的な解決を図るため努力するとの見解が表明された。救済の対象者である水俣病被害者もこの与党合意を歓迎していたところから、懸案の水俣病問題も一気に解決に向かうものと思われた。


ところが、環境庁は、8月21日に、「水俣病問題の解決について-調整案-」を発表したが、被害者団体はもとより与党内部からも猛反発を受け、却って解決への動きにブレーキをかける結果となっている。


今回の環境庁の調整案は与党合意とは基本的な点で異なるものとなっている。例えば、与党合意では、「司法の和解協議の場及び自主交渉の場において」話し合いによって解決することを基本としているが、調整案ではこれを認めていない。また、与党合意では、「一時金の算定方法」については「ランク分けするのが適当」とされ、「一時金の額の確定」については「司法の判断を参考として関係当事者間の調整を図る」ものとされており、これまでの経緯からすると、福岡高等裁判所での2年余にわたる和解協議を経て、同裁判所から提示された和解案に基づくことが前提となっているとみられるが、調整案では、一時金のランク付けに対しては一律の方向を打ち出し、一時金の額についても、平均的な判決額から総合対策医療事業の給付額を控除した額を一時金の額としようとするもので、福岡高等裁判所の和解案に比して著しく低額となっている。


今回の調整案は、被害者団体から十分に意見を聞くという当然の手続も経ずに作成されたものであって、被害者団体の意見を踏まえてまとめられた与党合意の内容にも反しており、被害者救済という点でも不十分との誹りを免れない。今回の調整案に関わる環境庁の対応にはきわめて問題が多く、環境庁には猛省を促さざるをえない。


水俣病問題の解決なくしては、わが国の公害環境問題のさらなる前進はありえない。水俣病問題の解決は加害企業のみらず政府の責任であることは、これまでの多くの司法判断の示すところである。


政府及び環境庁は、環境庁創設の原点に立ち返って、被害者団体の意見を十分聞き、福岡高等裁判所の和解案等の司法判断を尊重して、水俣病問題の一日も早い解決を実現するために全力を尽くされるよう強く求めるものである。


1995年(平成7年)9月14日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献