子どもの権利条約の批准に関する声明

1989年11月20日に国連総会で採択された「児童(子ども)の権利条約」は、去る3月29日にその批准承認案が国会において承認可決され、これを受けて日本政府がこのたび同条約を批准したので、批准書の国連への寄託手続を経て正式に発効する運びとなった。


当連合会は、「児童(子ども)の権利条約」が国連総会で採択された直後から、子どもを権利行使の主体と認めて子どもの社会参加を重視するこの条約が、日本における子どもの深刻な権利侵害の現状を改める契機となるとして、政府に対して繰り返し条約の早期・完全批准と法改正や運用の見直しを求めてきた。それだけに1990年9月22日に日本政府が同条約に署名してから3年8か月を経ての今回の批准は、いささか遅きに失したことは否めないが、同条約の批准によりこれが国内法的効力を有するに至ったことの意義に鑑みて、当連合会は、これを子どもの人権保障に向けての第一歩として評価するものである。


政府は何よりもまず、「児童(子ども)の権利条約」を子どもたちすべてにわかりやすく知らせ、理解を深める努力をすべきである。そのうえで、同条約に照らして、子どもたちのおかれている現状をつぶさに点検し、必要な法改正とさまざまな運用の見直しを含む総合的な実施行動計画を早急に実施すべきである。


当連合会は、既に1993年3月11日付「意見書」や同年11月19日付「会長声明」において、政府に対して、婚外子(非嫡出子)差別の撤廃など緊急に実施すべき法改正や、子どもの権利侵害の監視・救済などを行う 「子どもの権利オンブズマン(パーソン)」の設置などについて具体的な意見・提言と協議の申入れ等をしてきたが、政府はこれらを十分に踏まえて、子どもの人権保障に向けての政策を具体的に推進すべきである。


また、条約の批准により、政府は、2年内に国連の子どもの権利委員会に対して条約の実施状況について報告する義務を負うことになった。この報告においては、単に国内法の整備状況だけでなく、条約の批准後に子どもたちのおかれている現状がどのように具体的に変わったのかが問題とされることとなっている。政府は報告書の作成にあたっては、予め当連合会をはじめ子どもの権利擁護のための国内諸団体等に、広く意見を聴取するなどの方策を講ずべきである。


当連合会は、今後も子どもの目線に立って、条約の実施状況を監視・点検し、「子どもの人権救済窓口」の一層の拡充、少年事件についての当番弁護士や附添人活動の充実などの諸活動を通じて、子どもの人権の確立に努めるとともに、関係省庁と今後も必要な協議・対話を行うことを申し添えるものである。


1994年(平成6年)5月2日


日本弁護士連合会
会長 土屋公献