榎井村殺人事件再審無罪判決をうけて

声明

本日、吉田勇氏に対して、高松高等裁判所は榎井村殺人事件につき、再審無罪の判決を言い渡した。


吉田氏は1946年(昭和21年)行政検束によって身柄拘束をされて以来一貫して無実を主張しており、冤罪をはらすためその人生の大半を費やしてきた。


香川県弁護士会および愛媛弁護士会が共同で支援し、さらに当連合会も支援する中で、1990年(平成2年)再審請求がなされ、昨年11月の再審開始決定を経て今日の無罪判決に至ったのである。実に半世紀もの長きにわたりこの再審無罪の獲得という困難な戦いに挑み続けてきた吉田氏に対して深甚なる敬意を表するとともに、弁護団の労苦をねぎらい、ともに喜びたい。


本件の誤判の原因は、「共犯者」の自白が違法捜査によって強要されたものであることを看過し、さらに無罪を示す多数の証拠を無視し、実質的にこの自白のみによって有罪を認定したことにある。自白を偏重する捜査や裁判はまことに残念ながら今日もなお根強く残っている。また再審無罪判決を得るのに実に半世紀を要したという事実は刑事裁判制度に対して重大な疑問を提起している。


われわれはみなさまとともに、人権擁護と誤判防止の観点から、代用監獄の廃止、当番弁護士制度の充実、また再審に関する立法と運用の改善など刑事裁判制度の改革・改善の活動をさらに一層充実・発展させる決意である。


1994年(平成6年)3月22日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎