「臓器移植法案の骨子」に関する会長声明

「脳死及び臓器移植に関する協議会」の野呂座長は、5月19日、「臓器移植法案(仮称)の骨子(協議会検討素案)」などを発表し、各党のすみやかな検討を求めた。野呂素案は、


  1. 「脳死は人の死という前提」に立って「死体」を「脳死体を含む」と法定し、
  2. 「脳死」の定義・判定基準は「竹内基準でおおむねよい」とし、
  3. 臓器提供は「ドナー本人の意思によるがそれが明らかでない場合は遺族の承諾によることを認める」

などの内容になっている。


野呂素案がほぼ踏襲している、生命倫理研究議員連盟の昨年10月の案にたいして日弁連は、本年3月に公表した意見書において、人権侵害のおそれ、専門的検討の不足などの観点から、


  1. 「脳死」を死とする新しい社会的合意は成立しておらず、
  2. 現段階での「脳死」移植は最も厳格な定義・判定基準・方法によって「脳死」が判定され、
  3. 臓器を贈るというドナー本人の明確かつ自発的な意思が確認される書面がある場合に限る

等の基本原則を外れたものは許されない旨述べたが、この批判はそのまま野呂素案にも当てはまるので繰り返さない。


野呂素案は、「脳死」についての慎重・反対論に対し、説得的な理由を示しておらず、自らの「脳死を人の死と認める」立場の根拠を何ら示してもいない。「臨時脳死及び臓器移植調査会」答申の「脳死」を「人の死」とすることに賛同しない立場から提起されていた疑問・問題点や、答申後の「脳死」の定義・判定基準・方法をめぐる専門内外の批判を審議過程でほとんど無視したまま、「もう結論を出すべき段階」と割り切るべきではなかろう。


われわれは、つとに、この問題を専門内外の広範な議論に委ね、社会的理解・合意の成立が先行すべきことを強調してきた。各党協議会が、拙速を避け、生命倫理の諸問題検討の原点に立ち返り、検討を深められるよう強く要望する。


1993年(平成5年)6月2日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎