産業構造審議会・国民生活審議会等の製造物責任(PL)制度についての報告書案に関する声明

産業構造審議会・国民生活審議会等の製造物責任(PL)制度についての報告書案に関連する最近の報道によれば、製造物責任法の法制化は是とするものの、その内容は、


  1. 製品のどこに欠陥があるかは消費者が主張・立証する必要がある、
  2. 欠陥や因果関係の推定規定は採用しない、
  3. 開発危険の抗弁は認める、

とするものである。


しかし第1に、これらの審議会報告書案にいう「欠陥」の定義は、日本の消費者により細部にわたって欠陥の立証を要求するものであって、EC指令における「欠陥」の定義より狭く、現在の「過失」と殆ど変わらないことになる。


第2に、日本が欧米に比べて殊の外消費者による証拠収集が困難であるにもかかわらず、日本の裁判所が高度の蓋然性の証明を求め、法律の規定がない限り立証責任の転換や、事実上の推定に極めて消極的な現状を踏まえずに、欠陥や因果関係の推定規定を導入しないとしたのは、日本の被害者の救済水準を実質的に欧米の被害者の救済水準より狭めるものである。


第3に、EC指令にある「事故時に欠陥があれば、流通開始時の欠陥を推定する規定」の採用に消極的であり、EC指令よりも後退している。消費者が、製品の流通開始時における欠陥の存在につき立証することは不可能に近い。


第4に、開発危険の抗弁を認めると、この争点をめぐって審理は長引くことになる。スモン、HIV訴訟などはまさにこの点の審理に莫大なエネルギーを要してきた。その間に原告は次々死亡していったことを忘れるわけにはいかない。


このような内容による立法によって、現在の過失責任の下での救済に変化をもたらしうるか、大いに疑問である。


政府が施策に生活者・消費者の視点を強調している今日、各報告書案が未だ企業の視点を脱しきっていないのは遺憾である。


当連合会としては、きたるべき最終報告書が、欠陥製品による紛争解決ルールにつき、わが国の司法の現状等を踏まえ、少なくとも次の内容を盛り込んだものとされるよう強く要望する。


  1. 「欠陥」概念を欧米と同等のものとすること。
  2. 欠陥・因果関係の推定規定を設けること。
  3. 開発危険の抗弁は認めないこと。
  4. 製品の安全性に関する情報を所持する者に開示を義務付けること。

1993年(平成5年)10月21日


日本弁護士連合会
会長 阿部三郎