国民生活審議会消費者政策部会の中間報告について

本日、内閣総理大臣の諮問機関である国民生活審議会消費者政策部会は、「総合的な消費者被害防止・救済の在り方について」と題し、製造物責任制度に関する検討の中間報告を発表した。


同報告は、「製造物責任法制を含む製造物責任制度につき、引き続き精力的に検討していく」ことを表明したものの、製品の欠陥による消費者被害の救済の原状および今後の在り方について、産業界の主張と消費者保護の視点からの主張を併記し、同制度の濫用や不当訴訟の誘発等、経済・社会的影響の可能性を指摘するにとどまり、製造物責任制度の導入の必要性について明記するに至らなかった。


当連合会が昨年と今年に行った「欠陥商品110番」では、わずか2~3日の臨時電話による調査によっても、全国で各約700件もの被害・苦情が寄せられ、救済されていない実情が明らかになった。また、昨年当連合会会員に対して行ったアンケート調査においても、製品の欠陥による被害事件の相談の66%が立証困難を主な理由として相談を受けただけにとどまり、救済を求めることすら断念しているのが実情である。訴訟上、救済されたとされる医薬品被害等の事案においても、そのために要した被害者や代理人の負担ははかりしれないものがある。


既に欧米では、近年の社会経済構造の変化への法的対応として厳格責任制度が導入されてきており、世界の趨勢となっており、わが国にも早期導入が求められている。また、本報告書において製造物責任制度の導入による懸念される弊害として指摘されるものは、日米の社会制度の差異を無視した仮説であったり、EC指令や構成国での立法化に際して主張され、克服・検証されてきた問題や、公開の場での対応によって適正に解決されうる問題であって、導入の方向を明示することを妨げるものではない。


本報告書が冒頭に掲げるように、今日わが国のあらゆる政策、社会システムを国民の生活優先へと転換していく必要性を自覚する視点に立つならば、世界的先進工業国の一員に数えられ、製品の技術化がますます進行しているわが国の、現行法制の下での、製造者等の過失、製品の欠陥や因果関係の証明の負担は被害者に重きにすぎたるものであり、消費者被害の公平かつ簡易迅速な救済のためにその負担の軽減がはかられるべきことは、今日議論の余地のないところというべきである。司法における規範として欠陥による製造者等の責任が明示されることは、被害の未然防止のための方策を促すものであることはいうまでもない。


本中間報告は、このような不十分さを有するものであるが、消費者政策部会の今後の取り組みとして、「経済社会の発展に即応した消費者の保護に関する総合的な方策を策定する立場から、製造物責任法制を含む製造物責任制度を中心として、引き続き精力的な検討を行っていく」ことを明らかにしている。最終答申に向けた今後の審議においては、わが国における被害救済の実態を正しく把握し、被害救済を実効あるものとする製造物責任法の立法化に向けて、具体的内容の検討がなされるべきである。かりにも、消費生活用製品安全法に基づくSマーク、SGマーク制度等、既存の制度の検討に終わることがあってはならない。


当連合会は、被害と救済の実態に基づき、今年3月15日に「製造物責任法要綱」を発表した。これは、わが国の欠陥製品による被害救済を実質的に欧米並に引き上げるために必要不可欠のものである。さらに、今年5月24日総会において「製造物責任法の制定を求める決議」を採択し、国民生活審議会を含む関係省庁に強く要請してきたところである。引き続き、国民生活審議会の今後の審議と最終答申に注目し続けるものであるとともに、まさに国の内外から消費者重視の政策へと転換が求められていることを自覚し、関係各方面が一丸となってその名に値する製造物責任法の立法化を推進されるよう、ここに改めて要請するものである。


1991年(平成3年)10月11日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平