水俣病訴訟についての和解勧告について

東京地方裁判所は9月28日、熊本地方裁判所は10月4日、それぞれ係属している水俣病訴訟について、和解勧告を行った。これに対し、被告である熊本県とチッソ株式会社は、10月5日までに相次いで勧告に従うことを表明した。ところが同じ被告である国は、未だ勧告を受け入れていない。


本日また、福岡高等裁判所も、係属している水俣病訴訟につき、和解勧告を行った。


水俣病の公式発見から34年余を経過した今日なお、多数の水俣病被害者が救済されずにいることは、勧告も指摘しているように誠に悲しむべきことであるとともに、由々しき人権問題である。


日本弁護士連合会は、人権擁護の立場から、昭和56年からこの問題についての調査研究を重ね、被害者の即時・完全救済等を求める決議をし、具体的方策の提言をしてきた。


環境庁長官も、第118国会において、水俣病被害者の救済は、「国の緊急課題であり、人道的にも1日も早く解決しなければならない」と明言している。また、右国会(参議院)では、水俣病被害者の早期救済の実現を求める政府に対しての付帯決議が全会派一致でなされている。


水俣病の全面解決を求める声は、各新聞社が一斉に社説で主張していること、学者や文化人の『水俣病アピール』などにみられるように、今や広範な世論となっている。


環境庁は、これらの勧告が何れも水俣病問題の1日も早い全面的解決に向けての裁判所の並々ならぬ決意を示したものとして、和解勧告を厳粛に受けとめるべきである。


日本弁護士連合会は、和解勧告が福岡高等裁判所においても行われたことを機に、人権擁護の立場から、国が三つの和解勧告を受け入れ、1日も早く全被害者の救済にあたる決断をするよう求めるものである。


1990年(平成2年)10月12日


日本弁護士連合会
会長 中坊公平