布川事件即時抗告棄却決定について

本日、東京高等裁判所は、請求人桜井昌司・杉山卓男両氏に係る再審請求事件(いわゆる布川事件)について、その即時抗告申立てを棄却する決定をなしたが、これを棄却した理由も審理不充分のまま原審判断を単に追認したのみで、甚だ遺憾である。


本件確定判決の証拠構造は、他の冤罪事件と共通した脆弱なもので、物証は皆無であり、「犯行当日請求人両名を布川近辺で見た」とのあいまいな目撃証言の他は、矛盾・変転に充ちた請求人らの「自白」があるのみである。


請求人・弁護人らは、被害者の死亡推定時刻が原審の認定時刻と異なること、目撃証人が請求人らを見たとする日は犯行日と一致しないこと、請求人らの自白には多くの矛盾・変転があること、右自白は請求人らが別件逮捕によって代用監獄に留置され、長時間・長期間連続した取調べにより、虚偽の自白を強制・強要されたものであって、任意性も信用性も共にないものであること等を明らかにするとともに、それら事実の取調べのため検証・証人調べ等と本件全体の解明のための公判未提出記録等の取寄せ・開示等を強く要請していた。


しかしながら、裁判所は、未提出記録の一部を取寄せ・開示しただけで、弁護人が重ねて要請した証人等事実調べを全く行わず、真実の究明に消極的態度に終始したまま本日の決定に至った。本決定は、審理不尽・事実誤認の謗りをまぬがれないと言わざるを得ない。


当連合会としては、今後、本件が最高裁判所において充分な審理が尽くされ、再審開始がなされるよう弁護団の努力を期待し、これに支持協力を続ける決意である。


1988年(昭和63年)2月22日


日本弁護士連合会
会長 北山六郎