名張毒ぶどう酒事件再審請求棄却決定について

去る12月15日、名古屋高等裁判所は請求人奥西勝に係る再審請求事件(いわゆる名張毒ぶどう酒事件)について、これを棄却する決定を下した。


本件は昭和36年に発生し、ぶどう酒に農薬を混入して十数名を殺傷したという事件であるが、物証としては酒瓶の王冠に存する傷痕が唯一のものであって、一審で無罪となり、二審で逆転死刑となった証拠構造の極めて脆弱な事件である。


本請求審において弁護団が提出した数々の新証拠によって、唯一の物証である王冠の傷痕が請求人の歯痕だとする鑑定書の誤りが明白になったほか、請求人の犯行の可能性、使用された農薬の量など動機、実行の全般にわたって多くの不合理が明らかとなった。「疑わしきは罰せず」という刑事訴訟の基本に立てば、本件は到底有罪認定のできないものであって、再審が開始されるべき事案である。しかるに今回の決定は新証拠を正当に評価せず、旧証拠を含めた総合的見直しをすることなく請求を棄却したものであって、白鳥、財田川決定を通じて確立されつつある再審法理に逆行するものである。また、本件においては検察官の手元に膨大な不提出記録が残されており、これが開示されないままに決定されたことも甚だ遺憾である。


請求人は、本日、右決定を不服として異議の申立をしたが、当連合会は、再審開始を目指して今後も全力を挙げて支援していく所存である。


1988年(昭和63年)12月19日


日本弁護士連合会
会長 藤井英男