徳島事件再審無罪判決言渡しについて

わが国初の死後再審事件である故冨士茂子さんの徳島事件の再審裁判で、本日徳島地方裁判所は無罪の判決を言い渡した。


本日の判決によって、冨士茂子さんが無実であったことが明らかにされた。しかし、本人の死後6年目にしてようやく得られた無罪判決であることは、誠に残念であり、請求人となって故人の遺志をついできた方々をはじめ、関係者の思いは推察するに余りある。


徳島事件は、昭和34年に、日本弁護士連合会が人権擁護委員会の中に事件委員会を設けて取り組んだ最初の再審事件であり、以後当連合会は多くの再審事件の弁護活動に力を注ぎ、免田事件などの死刑三事件での無罪をはじめ、その成果を着々と重ねてきた。


今日、われわれの使命とする人権擁護活動の歴史に、さらに新しい1頁が書き加えられたことは、誠に喜びにたえない。


本件は検察官が少年に対する偽証強要などの違法・不当な捜査をくり返して作りあげた冤罪事件である。独断と偏見を出発点とする捜査と、これに依拠した誤判が、事件発生から今日までの32年間という長い年月、冨士茂子さんをはじめ、子どもたちや証人とされた人々など多数の関係者にはかり知れない人権侵害をもたらしたことは、他の冤罪事件の構造と全く同様である。


われわれは、このような冤罪事件は偶然に発生するものではなく、作られるものであるということを指摘し、それによる人権侵害の責任の所在を明確にしなければならない。


そのことこそが、誤捜査・誤判を防ぐために何よりも重要である。


われわれは、再審法改正・代用監獄の廃止などを求める運動はもとより、あらゆる日常の活動を通じて、徳島事件の悲劇とそこで行われた数々の人権侵害が再びくり返されることのないようにしていく責務を負っていることを改めて確認する。


1985年(昭和60年)7月9日


日本弁護士連合会
会長 石井成一