ベビーホテル問題について

最近無認可保育所、ベビーホテルが急激に増加し、これらの施設に預けられた乳幼児の痛ましい死亡事故が続発しているのは憂慮に耐えない。


このような乳幼児の死亡事故多発の原因は、営利を目的とした無資格保育者が、劣悪な施設に乳幼児を預け、日の当らない店舗の2階、ビルの一室等に多数の乳幼児を詰めこみ、保育室には常に保育者が在室するという原則を守らず、乳幼児がうつ伏せになっていても放置し、病気になっても十分な看護をせず、甚だしいときは、乳幼児が死亡していても気付かないなどその責任を果たさないことによるものである。


また、このような劣悪な施設では、事故につながらない場合でも自閉症など心身に障害が現われる例も多くみられ、乳幼児の心身の健全な成長発達を期待することはできない。これはまさに乳幼児の生存権(成長発達権)に対する侵害である。


かかる問題の多い営利的な乳幼児産業の発生を許したのは、社会が複雑化し、婦人労働が多様化して、産休明け保育、長時間及び夜間保育等の保育需要が高まっているにもかかわらず、国及び地方公共団体が、家庭保育中心の思想から脱しきれず、公的保育施設を十分整備しないままに、無認可保育施設、ベビーホテルを黙認し、保育需要に十分な対応をしなかったことによるものであり、その責任は重大である。


乳幼児の保育行政について責任のある国及び地方公共団体は、このような悲劇が発生した原因が貧しい保育行政にあることに思いを致し、労働条件の向上にとりくむとともに改善を要する施設に対しては、暫定措置として、新たに保育需要の実情にそう基準を設け、期間を限り、都道府県知事に対する届出を義務づけて十分な調査・監督をするとともに、更に抜本的には公私立の認可保育所、乳児院を増設し、保育時間を延長し夜間保育体制を整備して乳幼児を収容するなど、恒久的総合的対策を講ずるべきである。


当連合会は、これまで人権擁護委員会内の社会保障問題調査研究委員会において、無認可保育所ベビーホテルに関する法的諸問題について調査研究をしてきたが、乳幼児に対するかかる人権侵害をなくすために一層の努力を続けていく所存である。


1981年(昭和56年)5月1日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎