那須隆氏国賠事件判決にあたり

本日、青森地方裁判所弘前支部は、那須氏らの国家賠償事件について判決を言渡し、那須氏の請求を基本的に認めたが、家族らの請求を全面的に棄却した。


那須隆氏は、昭和24年8月、いわゆる弘前大学教授夫人殺害事件の犯人として逮捕、起訴され終始無実を主張し続けてきたが、仙台高等裁判所は、昭和27年5月31日、懲役15年の判決を言渡し、服役を余儀なくされた。その後、昭和46年5月、真犯人が名乗り出たことにより那須隆氏は、雪冤の機会を得て再審の請求をし、昭和52年2月、仙台高等裁判所において再審無罪の判決を言渡され、28年の長期にわたる無実の主張を晴らすことができたのである。


この再審公判手続の中で、警察、検察の違法な捜査と公訴提起、特に有罪証拠の偽造を疑わせる事実が明らかにされた。


那須隆氏とその家族は、この違法な捜査当局の行為を厳しく批判し、28年間の苦しみによって受けた損害を正当に賠償させる努力を続けてきた。


本日の判決は、那須隆氏の請求を基本的に認めたが、現実の経済情勢の変化を十分に考慮せず、その認容額は極めて少額であって、現実離れのものになっている。


また、那須氏らの家族の請求に対しては、その苦しみを十分に把握せず、全面的に退けたのは、まことに遺憾である。


当連合会は、今日まで那須氏の雪冤の努力を全面的支持してきたが、本日の判決が那須隆氏の請求を認めたのは、雪冤者の実質的救済にとってまことに画期的なことである。


しかし、その認容額が極めて少額であり、家族らの請求を認めなかったのはまことに不十分であるので、当連合会は、更に無辜救済を目的とする再審法の改正並びに本日の判決にみられる冤罪者の実質的救済の不十分さを克服するため、那須氏らとともにいっそうの努力を続けていく所存である。


1981年(昭和56年)4月27日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎