牟礼事件再審請求棄却にあたり

昭和56年2月23日、東京地方裁判所は、佐藤誠氏の再審請求を棄却する決定をなしたが、まことに遺憾である。


佐藤氏は、昭和27年10月3日逮捕以来一貫して犯行を否認し、無実を主張し続けたにもかかわらず、確定判決は、共犯者と称する者の自白のみを決定的な証拠とし、有罪死刑の判断を下している。


今回の再審請求においては、右共犯者の自白中最重要部分たる被害者の殺害方法が、事実に反し虚偽であることを明らかにする法医鑑定などが提出され、その信憑性には全面的に疑いが生じたのである。これらの新たな証拠と従前の証拠とを総合すれば、佐藤氏に対する有罪判決は到底維持することはできず、すみやかに再審は開始されねばならなかった。


しかるに、決定は、あやふやな確定判決の事実認定を無批判に追認し、右新証拠の意味を正当に理解することなく、請求を棄却したのである。これは最高裁白鳥決定に端を発する無辜の救済に積極的に目をむけた再審裁判の流れに逆行し、冤罪に泣く者の人権の上に確定判決の権威をおく不当なものである。


我々は、佐藤氏に対する死刑執行をくい止め、この誤った決定を正すため、今後共一層力を尽す決意である。


1981年(昭和56年)2月28日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎