刑法問題意見交換会打切り発言について

本日奥野法相は、日弁連と法務省との刑法問題意見交換会を年内に打ち切りたいと言明した旨伝えられている。


日弁連は、このような法相の態度を真に遺憾とし、これに強く抗議するものである。


この意見交換会は今はじまったばかりである。実質的論議に入った去る9月16日の第2回意見交換会では、刑法全面改正の必要性について法務省側の基本的な理念と方向が不明確でありかつ重要問題の1つである法定刑の引き上げについても、実質的な論拠が全く存在していないことが一層鮮明になり、法務省側も更に次回にこの点の論議をつめていくことを約束している。


このように、論議の中で問題点が深められ、意義の多い意見交換が行われたのであり、このことは、刑法全面改正問題について、真に必要な論議を充分に尽くさなければならないということの重要性をますますはっきり裏付けている。


日弁連は、改正刑法草案による刑法全面「改正」について国民の基本的人権を侵害する危険が大きいことを最大の理由として、かねてから強く反対すると同時に、この問題に関する国民的論議を発展させることの重要性を強調してきた。


法務省も幾度となく国民各層の意見をよく聴いていく旨確約してきた。


今回の意見交換会は右の国民的論議の発展に役立つように双方の意見を直接的かつ素直に交換しつつ問題点を浮きぼりにしていこうとするものであった筈である。


それにもかかわらず、法相はこの時期に刑法全面改正について必要な論議を避けるというのであろうか。


これは第1回意見交換会冒頭で実のある討議をしたいと言明した法務省側の立場をもくつがえす、許すことのできない不信行為であり、国民各層の意見を聴くとしてきた法務省側の作業のあり方についての約束にも反するものである。


さらに、これは意見交換会の中で充実した討議の行われることを求めてきた国民世論にもそむくものといわなくてはならない。


日弁連は法務省が誠意ある態度で意見交換会にのぞむことを強く求めるものである。


1981年(昭和56年)9月18日


日本弁護士連合会
会長 宮田光秀