談話 徳島事件再審開始決定にあたり

本日、徳島地方裁判所は、請求人冨士茂子さん(その死亡後は、請求人冨士千代さん外3名)の請求を容れて、昭和28年11月徳島市において発生した殺人事件の確定判決に対し、再審開始を決定した。


  1. 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則は、再審裁判にも適用され、新証拠は他の全証拠と総合的に評価判断すべきものとした昭和50年の最高裁白鳥決定以来、その判旨はさらに敷衍され、今日まで幾つかの再審開始決定があいついでなされたが、本事件についても、確定判決に対し、科学的批判にたつ新証拠が正当に評価され、本日ここにその実がまた一つ結ばれたことを心から喜ぶものである。
  2. 本事件の請求人冨士茂子さんは、事件発生以来、無実を叫びつづけながら、不幸、本日の再審開始決定をみることなく、第5次再審申立事件審理中である昨年11月無念のうちに死去され、その裁判は4人の姉弟によって第6次再審申立事件として引きつがれてきた。
    長きにわたって無実を訴え、数次の再審請求棄却にも屈せず、たたかいを続けてきた冨士茂子さんと、これを支えてきた多くの市民並びに弁護人諸氏の活動にあらためて敬意と謝意を表し、冨士さんの霊前に請求人姉弟とともに、本日の開始決定を捧げるものである。日弁連は、その発足以来、冤罪に苦しむ人々の救済のため、再審事件に積極的に取組むとともに、再審に関する立法・運用の改善を強く提言してきた。

本日の開始決定にあたって、日弁連は、特に次の諸点を強く要請する。


  1. 検察官は本日の開始決定を尊重し、速やかに本件を再審公判に移行させて、雪冤の早期実現を期すべきである。本件が本日の開始決定までいたずらに数次の申立を重ねさせられたことを教訓として、再審の理由を拡大緩和し、請求人の手続保障の充実を期する再審法の改正を急ぐべきである。

日弁連は、右の実現のため、更に全国会員が力を合わせ、引続き努力を重ねていくことを誓うものである。


1980年(昭和55年)12月13日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎